2010 Fiscal Year Annual Research Report
放射性同位体比を用いた炭素循環速度と食物網構造の関係の解明
Project/Area Number |
08J03126
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石川 尚人 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 河川生態系 / 食物網 / 炭素循環 / 放射性炭素 / 空間的異質性 / 混合モデル / 時間軸 / 炭素起源推定 |
Research Abstract |
平成22年度は、研究課題「放射性同位体比を用いた炭素循環速度と食物網構造の関係の解明」に関して以下のようにまとめた。まず、既存の論文からメタ解析を行った。河川生態系の主要な生産者である、礫表面に付着する藻類(付着藻類)の炭素安定同位体比(δ^<13>C)は、空間的に大きく変動した。このことから、食物網の炭素起源推定において精度の高い解析をするためには、δ^<13>Cに代わる指標が必要であることを示した。次に、放射性炭素14の天然存在比(Δ^<14>C)による食物網解析を行った。ここでは、Δ^<14>Cが地下部から溶出する年代の古い炭素と、現世の大気CO_2との混合によって値が決まることを利用した。Δ^<14>Cを用いることで、堆積岩地質の河川において「年代の古い炭素を固定する付着藻類」と「現世の大気CO_2に由来する陸上植物リター」とを分離できることを示した。そして、付着藻類のδ^<13>CとΔ^<14>Cの変動性について、同一河川における複数のハビタット間で比較した。δ^<13>Cは付着藻類とリターとの間で重複が存在するほど大きな変動を示したが、Δ^<14>Cはこれらを明瞭に分離した。この結果、河川食物網の炭素起源を高精度に推定するという目的の上では、δ^<13>CよりもΔ^<14>Cの方が有効な指標であることが実証された。最後に、Δ^<14>Cを用いて河川食物網の炭素起源推定を行った。水生昆虫や魚類などの食物網を構成する生物のΔ^<14>Cは付着藻類とリターとの間に位置し、河川の食物網が現世の大気CO_2だけでなく、数千年前に固定された古い炭素にも依存していることが示唆された。本研究により、食物網解析の新しい指標としてのΔ^<14>Cの有効性が示された。Δ^<14>Cを用いることで、河川生態系の炭素循環の中に食物網を位置づけることが可能となった。本研究は流域の生態系構造の解明という大きな課題に寄与するものと期待される。
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Research Products
(6 results)