2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J03219
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
楠田 剛士 Kyushu University, 大学院・比較社会文化研究院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 原爆文学 / 記憶 / 記録 |
Research Abstract |
報告者は、つかこうへい1、井上光晴2・3、小田実4らが描いた小説に、原爆の事実と虚構を織り交ぜる方法と、様々な差別問題とが共通して描かれる点に注目し、その意味を考察するため、小説発表前後の文献の収集・調査し、分析を行った。1は「二つの物語-つかこうへい『広島に原爆を落とす日』論」という論考がその成果である。従来の研究では朝鮮人が広島に原爆を落とす戯曲として読まれてきたつかの作品が、実際は日本人と朝鮮人の両親を待つ人物の物語であることを指摘し、そのような誤解が生じた原因を、戯曲から小説への書き換えによる主人公の設定の変化、ヒロインの設定変更などに見られる差別問題の前景化、戦後の朝鮮人被爆者に対する補償問題の点から論じている。2については、長崎の各図書館等に赴いて資料を収集・分析し、これを「井上光晴『地の群れ』と長崎「原爆スラム」」として発会発表した。小説で被爆者のスラム街が描かれる意味を問い、実際に長崎にあったスラム街をめぐる言説を参照することで、戦後長綺の復興のもうひとつの側面を照射していることを論じた。この報告での質疑応答を踏まえ、再考したものが、3の発表「井上光晴『地の群れ』における「被爆者部落」の問題」である。ここでは、作品に登場する三つの被差別空間の内閉性に注目し、互いが抱える差別問題が「みんなの問題」になり得るか否かを問う、現在的な問題を提起する小説として位置づけ、結末部の改稿の意味もその点から読み解くことができることを指摘した。4の「加害と被害-小田実『HIROSHIMA』論」は韓国で報告を行い、広く意見の交換を求めた。日本、アメリカ、朝鮮半島を舞台として様々な国籍の人物が結びつく小説は、在米被爆者や日系人捕虜收容所をめぐる同時代の記録・証言と同じ問題意識を共有していることを明らかにした。以上の四点が本年度の主な研究成果である。
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Research Products
(4 results)