2008 Fiscal Year Annual Research Report
真性粘菌変形体が作る適応ネットワーク系についての数理解析
Project/Area Number |
08J03310
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
宮路 智行 Hiroshima University, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 真性粘菌変形体 / 経路探索 / 常微分方程式 / ヘテロクリニック軌道 |
Research Abstract |
真性粘菌変形体による経路探索失敗のプロセスを解明するのが、本研究の目的である。そのために、力学系理論の観点から、粘菌の経路探索過程を記述した四変数常微分方程式系の解析を行った。今年度の研究成果は、数学的には以下のようにまとめることができる: 1.経路探索結果の出力に対応する七つの平衡点の存在を証明した。 2.これら七つの平衡点の、力学系の流れに対する安定性を調べた。七つのうち三つが安定平衡点であり、残り四つは不安定なサドル平衡点であることが証明された。 3.各平衡点間を結ぶヘテロクリニック軌道が存在することを証明した。それらのいくつかは、不変部分集合上でのダイナミクスを考えることで、数学的に厳密に証明することができた。しかし、他のいくつかについては、コンピュータによる常微分方程式系の解軌道計算によって、その存在を示唆するに留まった。 以上により、粘菌の経路探索失敗を説明することができる。「なぜ間違えるのか」については、粘菌が生きる環境の違いが、モデル方程式内の粘菌の環境への適応ルールを表す関数の違いに反映されることから示唆される。一方、サドル平衡点と安定平衡点を結ぶヘテロクリニック軌道は、ある種の状態遷移を反映する。従って、上記の3.が「粘菌がどのように間違えるのか」という問題に対する回答となる。本研究は、遷移現象という非線形非平衡現象の数理的研究の一例である。また、粘菌から細胞のインテリジェンスを学び、高度な情報機能を持つ化学物質系等の設計原理を与えるモデル方程式研究に数学的な基礎を与える重要な一歩である。
|
Research Products
(2 results)