Research Abstract |
固体ロケットノズルのスロートの下流で穴が開き,そこから漏れた燃焼ガスが周囲の制御機器の故障を招いたために,M-V4号機およびH-IIA6号機の打ち上げは失敗した.ノズル内壁は,スロート部では熱による損耗に強い耐熱材,下流のスカート部では熱をノズル外部に逃がさないために断熱材で覆われている.これら二種類の材質の表面後退速度が異なるため,繋ぎ目に段差が発生し,そこから誘起された縦渦と壁面が干渉することで局所的にノズル壁面の損耗が激しくなる箇所が発生する.これがノズルエロージョンと呼ばれ,ノズルに穴が開くメカニズムとして考えられているが,実験による流れ場の再現は難しく,メカニズム解明のためには高精度の数値計算が必要である. 本年度は,ノズルエロージョン解明に向けて,WCNSを用いた陰的LES手法に基づく単相の数値計算コードを構築した.構築した陰的LESコードを用いて後向き段差を過ぎる超音速流れの数値計算を行い,段差下流において縦渦を捉えることに成功した.また,段差から境界層が剥離し,せん断層と段差の間に形成される再循環領域,段差下流における壁面でのせん断層の再付着,再圧縮衝撃波を精度良く捕らえた.計算の妥当性を検証するために,Smithの実験により得られた段差下流における壁面静圧分布を,計算結果から得られた壁面静圧分布と比較し,比較的良い一致を得た. 本研究成果は,計算スキームの数値粘性を用いることで特別な乱流モデルを用いることなく,従来のLES手法では難しかった縦渦と衝撃波が混在する流れを精度良く捕らえており,LES手法の発展に貢献している.また,これまであまり報告されていなかった衝撃波と縦渦の混在する流れ場の詳細について,非常に重要かつ有意義な知見を与えている.
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