Research Abstract |
まず,希土類イオンに対して強い錯形成を示すDOTAを基本骨格とし,タグ認識部位としてdi(2-picoryl)amine(Dpa)部位を二つ導入したテルビウム錯体,DDTbを合成した.タグ認識のストラテジーとしては以下の通りである.希土類金属イオンそのものは非常に吸光係数が小さいため,その発光を誘起するには光を効率良く吸収し,希土類イオンにエネルギー移動を起こすアンテナ分子が近傍に不可欠である.すなわち,DDTbそのものは無蛍光であるが,タグ中の適切な位置にアンテナ分子を配置しておくことにより,タグ結合時のみTb3+からの発光が観測されるようになる.タグ候補として四つのモデルペプチド,D8W1,D8A2W1,D8A4W1,D8AIW2を合成し,これらペプチドとDDTbの亜鉛錯体であるDDTbZn2との結合に関する各種パラメータを求め,それらの知見を元にタンパク質への応用を試みた.各種ペプチドに対しDDTbZn2を加えていったところ,トリプトファン由来の蛍光の減少とともにTb3+由来のの発光強度の増大が観察され,一当量で飽和したことからペプチドとDDTbZn2が1:1の比で結合していることがわかった.今回用いた4つのペプチドの中ではD8A4W1が最も大きな蛍光増大を示した.また,蛍光測定,マイクロカロリメトリーによりDDTbZn2と各ペプチドとの結合解離定数(Kd)を算出したところ,全てのペプチドにおいて150〜300nM程度であることがわかった.また,glutathione S-transferase(GST)にD8A4W1を導入したタグ融合タンパク質,GST-D8A4W1を調製し,DDTbZn2との結合実験を行ったところ,Tb3+由来の発光強度増大が観測された.一方,タグを持たないGSTを用いた場合にはそれらは検出されず,タンパク質中においてもタグに特異的に蛍光応答を示すことがわかった.さらに,GST-D8A4W1含む細胞破砕溶液にDDTbZn2を加え,時間分解蛍光測定を行ったところ,Tb3+由来の発光強度増大が見られ,タグ無しGSTの場合には増大は見られなかったことから,様々な細胞内在性物質存在下においてもGST-D8A4W1中のタグを選択的に認識できることがわかった.
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