Research Abstract |
大規模複雑ネットワークとして表現される人工システムの機能を分析および設計する際,望ましい機能の設計はネットワークの構造指針を得ることによって実現されるため,その適切なモデル化が重要となる.そこで,複雑ネットワークの構造を理論的に再現するネットワークモデルおよびモデル推定の手法を調査し,そのほとんどがネットワークの位相構造の統計的性質に基づいて現実のネットワークに対応するモデルを同定するものであり,その手法には,1)既知の統計的な構造指標によって,現実のネットワークを十分に特徴づけることができていない,2)構造指標に基づいて推定されたモデルが,元のネットワークの機能を再現するとは限らない,3)従って,推定されたモデルは元のネットワークの機能の分析には適さない,という課題があることを指摘した.この課題に対し,モデル推定に対してネットワークの機能という新たな要素を導入し,未知の実ネットワークの分析とモデル推定を行う方法および方法論を提案した.機能モデルに基づくモデル推定の枠組みを示し,スピン相互作用ダイナミクスに基づく機能モデルの提案とともに,機能モデルに対する入出力のパターンに基づき,ネットワークの機能クラスを示した.機能クラスは,新たなネットワークモデルの構築によって拡張できることを示した.さらに,機能モデルの拡張により,人工市場シミュレーションモデルにおけるエージェントのネットワークの推定に応用し,実問題に対する適用可能性と有効性を検証した.提案手法は,従来的な構造に基づいて推定されるモデルでは保証されない機能の再現性について,機能クラスに基づき,実ネットワークと同じクラスの機能を実現することで,より高度なモデル推定を可能にものである.そして,その方法論は新たなネットワークモデルを構築する指針を与え,また現実の問題を意図した複雑な機能モデルを導入した場合でも有効であることを確認した.以上の成果およびそれ以前の年度の成果を「機能に基づく大規模ネットワークの分析とモデル推定に関する研究」という題目で博士論文にまとめて提出した.論文審査に合格し,博士課程の標準就業年限を6ヶ月短縮して平成21年3月付けで博士(工学)の学位を授与された.
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