2009 Fiscal Year Annual Research Report
渓流環境への適応をモデルとした植物の適応進化機構のゲノムレベルでの解明
Project/Area Number |
08J03796
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
三井 裕樹 Kyoto University, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 適応進化 / 自然選択 / 生殖隔離 / 渓流沿い植物 / モミジバグマ属 / 集団遺伝構造 / 核遺伝子領域 / 琉球列島 |
Research Abstract |
本年度の研究成果は大きく3つの内容にまとめられ、学会で発表するか、または論文として投稿し掲載された。 (1)屋久島の渓流沿い植物ホソバハグマとその近縁種で林床に生育するキッコウハグマ(キク科モミジハグマ属の多年生草本)を用いて、両者の雑種を含めた集団の遺伝構造、ハビタット分化、形態分化を総合的に解析した。その結果、これらの2種は自然集団で交雑を起こしているにもかかわらず、対照的な渓流帯・林床環境の自然選択圧によって、顕著な形態的・遺伝的分化が維持されているという、「生態的な生殖隔離」の存在を明らかにした。この研究成果を2009年8月にイタリアのトリノで行われた第12回ヨーロッパ進化生物学会で発表した。またこの内容を投稿論文としてまとめ現在Evolution誌にて査読中である。 (2)前年度までに投稿論文としてまとめていた、屋久島の渓流沿い植物ホソバハグマの集団遺伝構造に関する研究が、2010年にAmerican Journal of Botany誌に掲載された。この研究は、洪水を伴う過酷な環境に生育する渓流沿い植物の、集団形成・維持機構について、分子遺伝マーカーを用いて詳細に調べた研究として高く評価された。 (3)生物の多様な姿形・生態の進化は、様々な環境への適応によって非常に短期間のうちに起こる可能性がある。我々は最新の集団遺伝学的手法を用いて、複数の核遺伝子領域を分子マーカーに用いて、琉球列島で多様化を遂げているモミジバグマ属近縁種における系統進化の歴史的なプロセスを推定した。その結果、形態・生態的に全く異なる4つの近縁種は、驚くべきことに非常に最近(数万年前)に分化した可能性が示唆され、おそらく琉球列島の湿潤な気候によって形成された渓流環境への適応進化が、このような急速な種分化をもたらしていると考えられた。この研究の結果を2010年3月に行われた第9回日本植物分類学会(愛知)で口頭発表し、非常に先駆的な研究として高く評価され、学会発表で大会発表賞を受賞した。
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Research Products
(4 results)