Research Abstract |
目的・内容 本研究は,「相模湾における130年間のコケムシ相の変遷」と「大型コケムシ群集の基質資源としての役割」を解明することで,コケムシを基質資源とした海産生物相の多様性研究の足がかりを築くことを目的とした. 平成21年度は,前年度に国内外の博物館で観察した相模湾産コケムシ標本の観察結果に基づいて,相模湾のコケムシ相の多様性と130年間での変遷の解明を試みた.また,薩南海域および岩手県大槌湾でのドレッジ等を用いた調査により,相模湾との比較に用いる大型コケムシ群体を採集した. 結果・考察 標本観察の結果,総数約1,000点の相模湾産コケムシ標本から8,000以上のコケムシ群体を確認し,唇口目コケムシ57科118属261種を発見・記載した.このうち15種は日本初記録属であり,80種は未記載種であった.これまでR本の海産コケムシは約300種とされてきたが,本研究はその知見を大幅に塗り替えた.コケムシ相の変遷では,130年前から現在にかけて砂底環境にみられる種の減少がみられることから,堆積物などの底質環境の変化が考えられる.その一方で,大型種が現在まで継続的に得られていることから,相模湾では大型コケムシ群集が維持されていると推測される. つづいて,相模湾の大型コケムシ群集の構造を大型種の形態パターンと種構成から推定し,これを黒潮影響下の薩南海域および親潮影響下の大槌湾と比較した.その結果,相模湾では大型種が14種おり,他の海域に比べて群集構造も明瞭に多様であった.また,大型種の経時的変化を調べたところ,大槌湾でみられるグループの減少がみられたことから,相模湾における寒流要素の減少も推測された.相模湾で多くみられるアミコケムシ科の起立群体には,多毛類や棘皮動物,小型甲殻類などの棲息が多数確認されたことから,相模湾ではこれらの群体が海産生物の生息環境として重要な役割を果たしていると考えられる.
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