2008 Fiscal Year Annual Research Report
現代演劇における<舞台上の存在>論-身体/言葉の関係と<劇的なもの>の変容
Project/Area Number |
08J03987
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中筋 朋 Kyoto University, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 演劇理論 / 現代演劇 / フランス / 芸術哲学 |
Research Abstract |
本研究の領野は、フランス現代演劇と演劇理論にある。身体と言葉が織りなす出来事のダイナミズムを捉えるため、登場人物と役者のどちらとも異なる〈舞台上の存在〉という審級を措定し、演劇テクストの分析を通じて、物語内容の表象手段に還元することのできない言葉の動的な力を抽出する分析の可能性をひらくことを到達点として見据えている。 こうした基本的展望をもとに、今年度はこれまでの理論研究を基礎とした読解を通じてテクストのあらたな側面をひき出すことを試みた。具体的にはまず、M・メーテルランクの初期戯曲において、「日常の悲劇」の概念がいかに劇の構造を根本からゆるがし、ドラマという形式を内側から突きくずしているかを精察しながら、観劇がひとつの「出来事」になる機縁を具体的に捉えた。つぎに、M・デュラスの演劇概念の変遷を、役者との共同作業を通じて書き直された戯曲の分析を通じて考察した。その詳細を日本フランス語フランス文学会関西支部大会で発表し、『関西フランス語フランス文学』への論文掲載も決定している。この分析により、本研究の基本理論と、現代演劇理論の大きな争点の一つである「表象」から「現存」への移行の問題が具体的に結びつけられ、テクスト分析を通じて一回性のものである舞台芸術のあり方を捉える可能性が提示された。 また、今年度の研究により、こうした劇の変容が「定義はできないが指し示すことはできるもの」を中心に置くことに端を発していることが明らかになった。現在は、このような芸術特有の表現のあり方に注目し、芸術が体現する「思考しない者の思考」を捉えようとするJ・ランシエールと、「哲学とはそもそもいくばくか文学ではなかったか」という問いから出発し、虚構・ミメーシスを通してしか為しえない思考を追いつづけたP・ラクー=ラバルトの思索を参照しながら研究を進めている。
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Research Products
(2 results)