2010 Fiscal Year Annual Research Report
現代演劇における<舞台上の存在>論―身体/言葉の関係と<劇的なもの>の変容
Project/Area Number |
08J03987
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中筋 朋 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DCD1)
|
Keywords | 演劇理論 / フランス演劇 |
Research Abstract |
本研究は、演劇において観客が舞台上に見る人間の存在が、登場人物にも役者にも還元できないものであるということから〈舞台上の存在〉という審級を措定し、その存在の特異性に注目するところから出発している。研究の特徴は、現代演劇の状況をふまえた上で19世紀末の演劇を振りかえることで、そこからあらたな側面を引き出すことにある。 本年度は、前年度までにおこなった19世紀末ヨーロッパにおける劇作術の変容の分析を生かして、それを近代演出の誕生・俳優訓練術の萌芽と結びつける試みをした。まずはじめに、フランスでの近代演出の創始者であるアンドレ・アントワーヌに注目し、その手紙や新聞記事などを分析して、前年度までにおこなっていた「生のなかの劇」から「生そのものの劇」への転換との関連について、近現代演劇研究会で発表した。つぎに、本研究の背景となっている現代演劇における役者の存在の問題をはっきり示すために、現代作家ヴァレール・ノヴァリナの言語論・演劇論を分析して『仏文研究』への論文として発表し、現代的な問題と本研究の射程の関わりを明らかにした。 さらに、19世紀末の状況についての考察をより進めるため、アントワーヌ・メーテルランク・マラルメの言説における役者の身体への両義的な態度を分析し、日本フランス語フランス文学会秋季大会で発表した。さらに演劇においてボディーワークがあらわれてくる過程をたどるため、自然主義演劇理論における俳優訓練術の萌芽についての論文を執筆し、現在査読中である。これらの研究により19世紀末の劇作術の変容と演出の誕生の関係がより立体的に理解できるようになった。さらに、本研究が明らかにしたボディーワークによる無意識へのアプローチという論点は、今後世紀転換期のパラダイムシフトとの密接に結びつくものであり、今後はより大きな視座のなかで発展させていく予定である。
|
Research Products
(3 results)