2008 Fiscal Year Annual Research Report
公共空間論の新地平-ハンナ・アーレントの思想における難民問題と「権利をもつ権利」
Project/Area Number |
08J04210
|
Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
篠原 雅武 Osaka Prefecture University, 人間社会学部, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 権利をもつ潅利 / アーレント / 公共空間 / 政治的なもの / 不同意 |
Research Abstract |
本年度は、研究計画書の二年次の内容(アーレントの「権利をもつ権利」の概念の現代的意義の検討)にあたる研究をおこなった。これは、受け入れ研究室の酒井隆史准教授のもとでの発表および討論への参加、インフォーマルな研究会(福井県立大学宇城輝人准教授を中心とする)への参加というかたちでおこなわれた。これは、アーレントの思想的営為の内在的な理解に先立って、現代の、無権利者つまりは表象しえない存在者をめぐる政治思想の現状を理解するための必須作業でもあった。このアーレントの概念が現代においてどのように受容され、活用されているかを概観したうえで、報告者なりの独白の理解と展開を試みるのに不可欠のステップであったが、以上の成果をまとめたのが論文(「不同意と脱紐帯化としての政治的なもの」)である。計画書の二年次の内容は、「権利をもつ権利」の概念が現代の政治的思想的状況を理解するうえでどの程度に有効であるかをあきらかにし、そのために、現代の思想家がこれをどう咀嚼しているかを検討するというものだったが、当論文では、単にさまざまな思想家による解釈の比較検討にとどまらず、そもそも「権利をもつ権利」がどういう概念であり、その根底を規定するアーレントの政治的なものへの関心を現代において継承しつつ展開するための道筋をつけるといったところにまで議論を深めることができた。すなわち、「権利をもつ権利」が、政治的共同体に包摂することで回復されるべき尊厳であるとする解釈が一般的である思想状況に対し、報告者は、じつはこれが既存の政治体への包摂という展望に立つかぎり見落されてしまう表象不可能な権利のことを指し示していたということを論証し、この見解にたって、公共空間というものを根底から考えなおすことが可能であるという仮説を提起した。報告者の研究は、以上の研究に依拠しつつ、包摂とはべつの概念に基礎をおく公共空間の内実を問うところにまで及ぶようになった。
|
Research Products
(2 results)