2008 Fiscal Year Annual Research Report
ツォンカパの中観思想における時間論と業報思想の研究
Project/Area Number |
08J04525
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
根本 裕史 Hiroshima University, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | チベット:インド / 国際情報交換 / 仏教学 / 時間論 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ゲルク派の創始者ツォンカパの時間論と業報思想について考察することを通じて彼がインド仏教中観帰謬派の思想体系をどのように解釈したか明らかにすることである。本年度はまず彼の代表作『正理大海』と『密意解明』の関連箇所の翻訳研究に取り組んだ。翻訳研究に当たってはデプン寺ゴマン学堂出身のチベット人研究者と共同でジャムヤンシェーパの『中観大論』、ガワンタシの『セードゥラ』、チャンキャ・ルルペードルジェの『学説規定』の解読を行なった。この共同作業の成果をもとに『正理大海』と『密意解明』の訳注を完成させ、ツォンカパの時間論や消滅理論について考察した論文"On the dGe lugs pa Concept of Permanence"および「中観帰謬派の『無因消滅論』批判について」を公表した。この二論文は、従来学界で明らかにされていなかったツォンカパの難解な理論を本格的に取り上げ、その解明に成功したという画期的なものである。次に、ツォンカパの時間論の思想史的な位置づけを図るべく、初期カダム派のチャパ・チューキセングの『量論・心の闇の払拭』、『般若の光』、『中観東方三学者の千薬論』、マチャ・チャンツォンの『中観理聚の荘厳』の解読を進め、ツォンカパ以前のチベット仏教における時間論の系譜を明らかにした論文「チベット中観思想における時間論の展開-『刹那』の概念を中心に-」を公表した。カダム派の文献は近年参照可能となったものであり、本論文は世界に先駆けてカダム派の時間論を分析したものである。以上の研究成果に基づいて学位請求論文「ゲルク派における時間論の研究」を広島大学に提出し、学位を取得した。学位請求論文ではゲルク派の学者達が考える時間論、業報思想の特色を指摘した上で、彼らの見解の思想史上の位置づけを明らかにしている。
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