2008 Fiscal Year Annual Research Report
強磁性体における磁化ダイナミクスとスピン伝導の理論的研究
Project/Area Number |
08J05005
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷口 知大 University of Tsukuba, 大学院・数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 強磁性体 / スピン伝導 / 磁気緩和 / スピン注入磁化反転 / スピントルク |
Research Abstract |
本年度は強磁性多層膜におけるスピン注入磁化反転臨界電流の自由層厚み依存性を調べ、結果を国内・国際会議および誌上にて発表した。スピン注入磁化反転とは強磁性体に注入されたスピンから強磁性体の磁化へ角運動量が受け渡されることで磁化にトルクが働き磁化の向きが反転する現象である。スピン注入磁化反転に関する従来の理論では磁化反転に必要な臨界電流は強磁性層の厚みに比例し厚みが0の極限で臨界電流は0になると予想されていた。従来の理論では角運動量の受け渡しは強磁性体界面で行われると仮定されていた。また磁化の運動によって強磁性層から隣接する非磁性層へスピン流が流出するスピンポンピングの効果が無視されていた。しかし現実には角運動量の受け渡しは有限の距離(スピン侵入長)の間で行われる。また強磁性層の膜厚が薄くなるほど、スピンポンピングの効果が重要になることが知られている。本研究ではノンコリニアな磁化配置を持つ強磁性多層膜におけるスピン伝導に関する従来の理論を有限のスピン侵入長とスピンポンピングの効果が考慮できるように拡張し、スピン注入磁化反転の臨界電流を見積もった。そして強磁性層の厚みが0の極限でも臨界電流は有限となることを示した。この結果は2006年にアメリカ・ニューヨーク大学A.Kent教授のグループによって発表された実験結果とよく一致した。また有限の横スピン侵入長とスピンポンピングの効果の両方が強磁性層の厚みが0の極限で有限の臨界電流を与え、特にスピンポンピングが重要であることを見出した。近年の薄膜作成技術の進歩は今後、強磁性体に注入されたスピンの緩和過程を実験的に詳細に調べることが可能にすると考えられる。本研究はその先駆けとしてスピン侵入長およびスピンポンピングと臨界電流の関係を明らかにしたという点で重要である。
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Research Products
(11 results)