2009 Fiscal Year Annual Research Report
強磁性体における磁化ダイナミクスとスピン伝道の理論的研究
Project/Area Number |
08J05005
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷口 知大 University of Tsukuba, 大学院・数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 強磁性体 / スピン伝導 / スピントルク / 磁壁 / スピン蓄積 |
Research Abstract |
本年度は磁壁に生じるスピン蓄積とスピントルクの大きさを調べ、結果を国内・国際会議および誌上にて発表した。強磁性体内の電気伝導特性は伝導電子のスピンの向きに依存するため、強磁性体に電流を流すと強磁性体内部にスピン蓄積が生じる。スピン蓄積と磁化の間に働く交換相互作用のために、磁化にはスピントルクが働く。スピントルクは磁化の勾配方向の成分(断熱トルク)と断熱トルクに垂直な向きの成分(非断熱トルク)に分けられる。従来の理論では磁壁内のスピン蓄積が空間的に一様であると仮定してスピントルクの大きさを見積もっていた。そして非断熱トルクの大きさは断熱トルクの大きさの100分の1程度と予想されていた。しかし交換相互作用のためにスピン蓄積は磁化の周りで歳差運動を行うので、実際にはスピン蓄積は空間的に一様ではない。特に薄い磁壁ではスピン蓄積の大きさが空間的に激しく振動する。本研究ではBoltzmann方程式を解くことでスピン蓄積の空間分布に関する解析解を得た。そしてスピン蓄積は空間的に一様な部分と減衰振動する部分に分けることができること、厚みがスピンフリップ長(約40nm)より薄い磁壁ではスピン蓄積の振動成分が無視できないことを見出した。またスピン蓄積の解からスピントルクの大きさを解析的に見積もった。そして薄い磁壁では非断熱トルクの大きさが断熱トルクの大きさの10分の1程度になることを見出した。この見積もりは従来の理論の予想より1桁大きい。磁壁に生じるスピントルクは、不揮発性磁気メモリの情報書き込み手段として近年、盛んに研究されている。本研究の結果はこれらスピントロニクスデバイスにおける書き込み電流の低下などの課題の解決に寄与する。また強磁性体におけるスピン伝導を記述する上で重要なスピン蓄積の解析解を見出し、その空間的な減衰振動の特徴的な長さスケールを明らかにしたことは基礎物理の面でも重要である。
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Research Products
(16 results)