2010 Fiscal Year Annual Research Report
強磁性体における磁化ダイナミクスとスピン伝導の理論的研究
Project/Area Number |
08J05005
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷口 知大 筑波大学, 大学院・数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 強磁性体 / シンセティック自由層 / 熱耐性 / フォッカープランク方程式 / スピントロニクス |
Research Abstract |
本年度はシンセティック自由層における熱耐性の理論解析を行った。不揮発性磁気メモリに代表されるスピントロニクス・デバイスは、その素子サイズがナノスケールであるために、熱による撹乱を受けやすく、記録保持が困難であるという問題を抱えている。近年、素子の熱耐性向上に向けて非磁性Ru層を介した2つのCoFeB強磁性層が強磁性的に結合されたシンセティック自由層の研究開発実験が盛んに行われている。Ru層を介した結合によって素子全体の熱耐性を上げようというのが実験研究の狙いである。しかし結合によって熱耐性が上がるのか、上がるとすれば最大どの程度まで上げられるのか、といった問いに答える理論的な研究はあまり報告されていない。本研究ではフォッカー・プランク方程式に基づいてシンセティック自由層の熱反転確率の公式を導出した。熱反転の過程は2層間の結合エネルギーと磁気異方性エネルギーの大小関係に応じて2通りに場合分けされる。結合エネルギーが磁気異方性エネルギーより小さい領域では、2つの磁化はバラバラに反転する。この過程では結合によって熱耐性が向上することを見出した。結合の大きさが磁気異方性と同程度になると熱耐性の向上は最大となり、その大きさは強磁性層1層に比べて4倍となる。一方、結合エネルギーが磁気異方性エネルギーより大きくなると、2つの磁化は同時に反転する。この過程の熱耐性は2つの強磁性層のそれの和になるものの、結合は熱耐性に影響しないことを示した。これらの結果から結合エネルギーが磁気異方性エネルギーと同程度の時に熱耐性が最も高くなることが理論的に予想される。この結果は高い熱耐性を持つスピントロニクス・デバイスの実現に大きく貢献するものである。
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Research Products
(12 results)