Research Abstract |
ワーキングメモリの注意制御系は,課題目標に関連する情報に対して注意を向ける一方で,無関連な情報に対する注意を抑制するはたらきをもつ。Lavie(e.g.,2004)が提唱した負荷理論においては,ワーキングメモリの注意制御系に対する負荷は,課題無関連情報の排除機能の低下をもたらすと考えられている。しかしながら,近年の研究では,ワーキングメモリに対する負荷は,必ずしも課題無関連情報の排除機能を低下させるわけではなく,場合によってはその機能を促進することが示されている。この仮説を検討するために,本研究では,ワーキングメモリで保持する情報の種類と妨害情報の種類を同一にし,ワーキングメモリ負荷の増加が,課題無関連情報の排除機能に与える影響を検討した。記憶刺激には顔写真を用い,ワーキングメモリ内で顔情報を保持している遅延期間中に,顔妨害刺激と色ターゲット刺激を呈示し,顔妨害刺激を無視しながら色の判断をすることを被験者に求めた。色判断課題の成績に対するワーキングメモリ負荷の効果を分析したところ,低負荷条件の成績が高負荷条件よりも低いことが明らかになった。この結果から,ワーキングメモリ負荷は,必ずしも課題無関連情報の排除機能を低下させるわけではなく,記憶刺激と妨害刺激が一致するという文脈においては,促進作用を持つことが示された。この促進効果は,ワーキングメモリと視覚的注意が同じ資源を消費し合うために生じると考えることができる。本研究結果で得られた促進効果は,教育や産業場面に応用できる可能性を多分に秘めている。妨害情報の量や質を状況に応じて変化させることで,わたしたちの注意のはたらきを促進する環境の開発が可能となるかもしれない。
|