2008 Fiscal Year Annual Research Report
シロアリの卵に擬態する菌核菌類の擬態メカニズムと擬態の進化の解明
Project/Area Number |
08J05483
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
矢代 敏久 Okayama University, 大学院・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 擬態 / 寄主-寄生者間相互作用 / 昆虫と菌の相互作用 / 卵保護行動 / 社会性昆虫 / シロアリ / 卵擬態菌核菌 / ターマイトボール |
Research Abstract |
ヤマトシロアリ属シロアリの巣内の卵塊中にはシロアリの卵とは異なる褐色の球体(ターマイトボール)が存在する。この正体はFibularhizoctonia属の1種の菌核菌の菌核である。シロアリ職蟻は女王の産んだ卵を物理的(形、大きさ)及び化学的(卵認識フェロモン)に認識し、卵塊中に運搬し、抗生物質を含んだ唾液でグルーミングすることにより、卵を糸状菌やバクテリアから保護しているが、項擬態菌核菌(ターマイトボール)はシロアリの卵に物理的及び化学的に巧妙に擬態し、シロアリ巣内で天敵や競争者から保護されている生生物である。 我々は、菌類による社会性昆虫の卵への擬態という極めて特殊な生態を待ち、寄主-寄生者間相互作用の研究における格好のモデルでもあるこの卵擬態菌核菌に関する以下の研究を行った。 シロアリの卵認識フェロモンが抗菌タンパク質のリゾチームであることがすでにわかっていたが、今回の研究でセルロース分解酵素の一つであるβ-グルコシダーゼもシロアリの卵認識フェロモンであることを特定し、その卵認識フェロモンとしての活性はリゾチームを上回ることが判明した。さらに、卵擬態菌核菌はこのβ-グルコシダーゼを生産することによってシロアリ卵に化学擬態していることが判明した。今回の結果は、セルロース分解という共通のニッチを獲得したシロアリと菌とで同一の化学物質を生産することが、菌類によるシロアリ卵への擬態が生じる機会を与えたことを示している。このことは、フェロモン物質はもともと別の機能のために進化し、その後フェロモンとしての機能を獲得することを示唆している。 また、我々は西表島のタカサゴシロアリの卵塊中からこれまでに知られていた卵擬態菌核菌とは別系統の卵擬態菌核菌を発見した。実験及び解析の結果、菌核の大きさは生産コスト当たりの被運搬率が最大になるよう進化していることが明らかになった。
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Research Products
(4 results)