2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J05652
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 一孝 Kyoto University, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 哲学史 / ギリシア哲学 / プラトン / 饗宴 / 詩人 / エロース / 模倣 / アリストパネス |
Research Abstract |
本年度はプラトン『饗宴』篇の解釈を通じて、詩人や弁論家などと哲学・哲学者の関係を考察した。 『饗宴』篇は、医者や弁論家や詩人達がリレー形式で恋(エロース)を賛美するという特異な形式で進行するが、プラトンがなぜこのような作品の構成を選択したかについては、これまであまり論じてこられなかった。本研究は、『饗宴』において恋は哲学への原動力として描かれていることを確認する一方で、賛美という語りが各話者の恋を露わにすることを指摘し、詩人や弁論家も含めた登場人物のそれぞれが哲学に向かいうる可能性を持っていると論じた(この成果については「エロースと賛美プラトン『饗宴』における語りの形式について」『古代哲学研究室紀要』15号2009年にて発表した)。 こうした成果は、プラトンの芸術思想、あるいは詩人に対する理解についての従来の解釈に、修正を迫ることになるだろう。というのも、プラトンは『国家』篇、第10巻のいわゆる「詩人追放論」において、詩人とは人々を堕落させ、哲学と全く相容れない存在であると論じている。すると、『国家』と『饗宴』の詩人についての見解は、相反することになる。しかし『国家』の「詩人追放論」は理想国家建設という特殊な文脈におかれるものであるから、その議論が本質的にはらむ急進性を適宜考慮する必要があると思われる。すなわち、『国家』の急進的な議論は、理想国家を今すぐ実現するために、現在する人々に対して直ちに様々な強制を加えるようなことは、意図してはいない。むしろ『国家』が現実の人々に対しては、プロトレプティックな役割を持つように執筆されているとすれば、『饗宴』と共通した性格を有していると言えるだろう。
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