2008 Fiscal Year Annual Research Report
ヒューム道徳哲学の包括的再構成---道徳感情論と動機付け問題の架橋を中心に---
Project/Area Number |
08J05690
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
林 誓雄 Kyoto University, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 哲学 / 倫理学 / メタ倫理学 / イギリス経験論 / デイヴィッド・ヒューム / 環境倫理学 / 道徳感情 |
Research Abstract |
初年度は、申請書記載の研究目的-A「ヒューム情念論における道徳感情の位置づけを明らかにする」を遂行した。具体的には、道徳感情の正体を第二巻情念論で論じられる諸情念の性格と照らし合わせながら、なおかつ次年度の本研究の主題でもある「動機づけ問題」の議論とも絡ませつつ、解明を試みた。その結果、以下の成果が導かれた。すなわち、ヒュームは情念を、「直接情念」と「間接情念」との二種類に分けているが、先行研究を整理し、かつヒュームのテクストに忠実に考察すると、ヒュームの論じる道徳感情は「間接情念」と解釈するのが妥当であり、さらに、道徳的な行為の動機づけの役割は道徳感情である「間接情念」ではなく、「直接情念(欲求)」が担うと論じられていることが明らかとなった(この内容は「ヒュームにおける道徳感情と道徳的な行為の動機づけ」『倫理学年報』、日本倫理学会、第58号、2009年4月発行、に掲載予定)。 初年度の研究は、ヒューム研究の黎明期から議論されてきた「道徳感情」の正体について一つの明確な回答を与えたという点で、十分な意義が認められると考えられる。また、研究目的-Aを遂行する際には、現代メタ倫理学の議論、すなわち行為の動機づけに関する「内在主義」「外在主義」という区分を導入しつつ行なった。なるほど、メタ倫理学はその特徴として議論を単純化、形式化しすぎる傾向を持ち、安易にメタ倫理学の概念や手法を導入することは議論を徒に混乱させることに繋がりかねない。だが、本研究は、メタ倫理学の概念や手法を適切に用いることで、ヒューム研究のみでは見落とされがちだった点に光を投げかけることができた。
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