Research Abstract |
本研究の目的は,分子集団遺伝学,耳石解析,数値シミュレーションなどの新しい解析手法を総合し,熱帯ウナギの集団構造の解明にあたり,その資源保全を図ることにある。本年度は,熱帯ウナギの加入過程を明らかにするため,生物学的知見の集積と数値シミュレーションを実施した。北太平洋海域の温帯ウナギAnguilla japonicaと熱帯ウナギA. marmorata,インドネシア多島海域に生息する熱帯ウナギのA. celebesensisとA. borneensisの4種について,数値シミュレーションを行い,各種の回遊経路を推定した。北太平洋海域では,水深50,100mにおいては同様の傾向を示し,北緯13度起点では,150日で87%が北赤道海流を西に進んだあとミンダナオ海流に乗り換え南下し,インドネシア多島海域におよそ150-200日程度で辿り着くのに対し,北緯13度起点では,ミンダナオ海流に乗り換える割合は,6%にまで急激に減少した。逆に北赤道海流から黒潮に乗り換える割合は増加し,150日で57%,約200日になると63%が北赤道海流から黒潮に乗り換え,その後東アジア一帯に到達した。この結果より,僅か一度の緯度の差が仔魚の輸送経路に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。水深150mに設定した場合には,北緯13度起点においても北赤道海流に取り込まれる割合が多く,仔魚の分布様式と異なることから,輸送水深は150mよりも浅い層であることが示唆された。インドネシア多島海域に生息する熱帯ウナギ2種については,輸送水深が100,150mの場合には半数以上が放流後すぐにセレベス海から流出してしまうのに対し,50mでは多くの粒子が産卵場付近におよそ90日間滞留した。これは,実際の成魚の地理分布および接岸シラスの日齢査定結果とよく一致していることから,インドネシア多島海域の熱帯ウナギの仔魚は,輸送水深が浅い場合に最も効率よく成育場に加入できることが支持された。今後,これらの結果と熱帯ウナギの集団サイズとその資源動態を統合することで,科学的根拠に基づく熱帯ウナギの資源保全方策を提言することができると期待される。
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