Research Abstract |
魚群形成のメカニズムを明らかにするためには,近接する個体の行動を(1)刺激として受容する感覚器の機能解明と,(2)それを認知し行動を制御する脳神経系の解析,最終的に実現される(3)近接魚との行動の連鎖・同調行動の行動学的解明のそれぞれを統合したアプローチが必須である。申請者は,クロマグロの"感覚器","脳神経系"そして"他個体に対する反応行動"の3つの点について,個体が孵化したばかりの段階から順を追って解析していくことで,感覚器や脳神経系の発達が魚群形成に与える影響を評価することを試みている。今年度は項目(3)について,孵化後12-50日の個体を用いた行動実験を行い,また項目(1)(2)に用いる検体を取得した。その結果,孵化後24日齢で,魚群の元基と考えられるような2個体の同調した遊泳が見られ,30日齢では5-7個体での同調した遊泳が見られた。そこから40日齢まで,魚群の平行遊泳性や個体間の接近性,遊泳速度は向上し,極性の強い魚群を形成するようになった。個体間の行動の連鎖に着目すると,どの日齢でも,基準個体の方向転換に対して,後方および側方に位置する個体が反応行動を示し,反応潜時の最小値は0.1秒付近であった。即ち本種幼魚が近接個体の旋回を認知し,同調した反応行動を示すまでの時間に,成長による差違は小さいことが示された。しかし,方向転換を行った個体(基準個体)に対して遠くにいる個体が,近くにいる個体よりも長い反応潜時を要しか。これは,基準個体の方向転換が水槽内の全個体の反応行動を誘発しているのではなく,近傍個体のみの反応行動を誘発しており,結果として遠くの個体にまで行動が伝播している可能性を示している。
|