Research Abstract |
リソソーム酵素であるカテプシンB,Lは結合組織を破壊することが知られており,私たちは,インターロイキン6(IL-6)によってヒト歯肉線維芽細胞(HGFs)のカテプシン産生を誘導すること,また,その産生が細胞膜蛋白カベオリン-1-JNK-AP-1経路を介していることを報告した(Yamaguchi et al, J Cell Physiol,2008)。 血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は強力な血管新生能を有し,結果的にangiogenesisと呼ばれる炎症の増悪を導くサイトカインである。私たちは,IL-6が可溶性IL-6レセプター(sIL-6R)の存在下において,HGFsのVEGF産生性を亢進し,歯周病の悪化へと進展する病態メカニズムを提唱してきた。 今回,HGFsを中心とした歯周炎の治療ターゲットとして,細胞内領域の標的分子としては,カベオリン-1を選択し,細胞外領域の標的分子として,IL-6/sIL-6R複合体と3量体を形成してIL-6作用のアンタゴニスト機能を有する分泌蛋白の可溶性gp130(sgp130)を選択した。 本研究では,これまで歯周炎の病態への関与を解明してきたカベオリン-1と新たに標的分子としたsgp130によって,IL-6誘導性カテプシン産生およびVEGF産生を抑制する治療戦略を探ることを目的としている。その実施状況を報告する。 1.IL-6誘導性カテプシンB,Lの細胞外への分泌に及ぼすカベオリン-1発現抑制およびsgp130の影響 カベオリン-1発現抑制およびsgp130を添加したHGFsを用いて,IL-6/sIL-6Rで刺激した後,培養上清を回収し,ウエスタンブロット法によりカテプシンを検出した。 2.IL-6誘導性VEGF産生性に及ぼすカベオリン-1発現抑制およびsgp130の影響 上記1と同様のHGFsを用いて,IL-6/sIL-6Rで刺激した後,培養上清を回収し,ELISAキットを用いてVEGF量を測定した。 HGFsにおけるカベオリン-1の発現抑制,あるいはsgp130の添加によって,IL-6誘導性の細胞外へのカテプシン分泌およびVEGF産生は抑制された。このことは,IL-6による歯周病悪化を制御し得る新規の治療戦略として,HGFsを標的とした細胞内外の両領域におけるカベオリン-1およびsgp130が有効な標的分子である可能性を示唆する。
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