2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J06072
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
貫井 裕恵 Waseda University, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 東寺(教王護国寺) / 東宝記 / 寺誌 / 写本 / 書誌学 / 史料学 / 歴史叙述 / 文書管理 |
Research Abstract |
本研究は、南北朝期に成立した総合的寺誌『東宝記』を題材として、中世東寺における歴史叙述の生成と展開を解明することを目的とし、寺院史料論における寺誌の位置づけを明らかにしようとするものである。 まず本年度発表論文では、昨年度取り組んできた寺誌編纂の契機となる社会状況とテクストそのものとの関係を明らかにした。また『東宝記』を構成する一引用文献であり、同時に先行テクストとしての要素をもつ『東寺草創以来事(道我僧正記)』の史料翻刻紹介を行った。この史料は、来年度の課題である国宝本『東宝記』の成立過程の解明に極めて重要であると考えられるので、今後さらに検討を加えていく予定である。 本年度は、室町期における寺誌『東宝記』の利用について解明することを研究課題の主眼に据えた。具体的には『東宝記』諸本の悉皆収集を行い、その結果これまで知られていなかった諸本を多く発見し、包括的な諸本系統化が可能となった。この成果に基づき、南北朝期に一旦成立した寺誌『東宝記』が、室町期になると東寺の重要な各部署で相次いで写本(控え)が作成され、寺院運営、とりわけ造営事業遂行に利用されていたことを明らかにした。また、東寺における文書の整理・書写事業(・文書管理)の流れと、『東宝記』のテクスト相承のありかたが密接に関わることを指摘し、寺院史料論における寺誌『東宝記』の位置づけを試みた。これにより、寺誌『東宝記』の諸本生成の担い手やその利用状況を考えることから、東寺における寺院組織の拡充と成立、展開を見通すことができた。
|