Research Abstract |
本研究は,タイ国南部のマングローブ域において生物生産構造を解明することを目的としている.本年度はデータ収集を中心に行い,雨季と乾季において,マングローブ域内に存在する複数の微細な環境(水路,林内,裸地)から,生産者と一次消費者の生物生産量を定量した.以下では,データ解析が終了した雨季の調査成果を概説する. まず,一次生産者であるマングローブ,浮遊性微細藻類,底生微細藻類の現存量ならびに生産量を定量した結果,マングローブの現存量と生産量はともに林内で最も高く,浮遊性微細藻類のそれらは全ての環境で等しく,底生微細藻類のそれらは裸地で最も高いことが判明した.また,主要な一次消費者であるマクロベントス群集を対象に,捕食者排除実験によって現存量と生産量を推定したところ,現存量は裸地で最も高いが,生産量ではいずれの環境でも違いが認められないことが明らかとなった.これらの結果を,既知の物質フローにあてはめ,マングローブ域の生物生産構造を推定すると,裸地は現存量の最も豊富な動物相を有し,それは底生微細藻類によって維持されるものと推察された.すなわち,地球上で最も高い生産力を誇るマングローブ生態系は,裸地のような微細な生息場が混在することで維持される可能性が高いと考えられた.この成果は,マングローブ域が複数の生息場の複合体であることを強調するものであり,これまで画一的に捉えられてきたマングローブ域に,新たな視点を確立するものとして重要である.
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