2008 Fiscal Year Annual Research Report
森林における枯死材からの温暖化ガス放出に及ぼす穿孔性昆虫とその腸内微生物の影響
Project/Area Number |
08J06561
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
棚橋 薫彦 The University of Tokyo, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 枯死材 / 穿孔性昆虫 / 腸内共生微生物 / 木材腐朽菌 / クワガタムシ科 / キシロース発酵性酵母 / 二酸化炭素 / バイオエタノール |
Research Abstract |
研究代表者は、枯死材からの温暖化ガス放出に関わる昆虫とその腸内共生微生物の生態的機能を解明するため、典型的な枯死材穿孔性昆虫であるクワガタムシ科昆虫に着目し、第一にその腸内微生物相を解明することを目的として研究を行った。クワガタムシ科昆虫は体サイズが大きく扱いが容易であり、また多様な腐朽状態の枯死材に穿孔するため、枯死材の分解過程とそれに穿孔する昆虫の腸内微生物との関係を調べるのに適した材料である。本年度の研究において研究代表者は、日本産クワガタムシ科のほぼ全ての種群を対象とし、解剖学的および分子生物学的手法を用いて枯死材の分解に関わる腸内微生物の探索を行った。その結果、全てのクワガタムシ科の雌成虫は体内に特異的な共生微生物の保持器官を持ち、その中にキシロースの分解能力を持つ酵母(キシロース発酵性酵母)を保持していることを初めて明らかにした。キシロースは木材を構成する糖の一種であり、一般的な生物は利用することが難しい物質である。この酵第母は母親の共生微生物保持器官から仔へと伝播され、幼虫の腸内において木材の分解に寄与している。枯死材穿孔性昆虫の多くがこのような共生酵母を持つと予想され、枯死材の分解とそれに伴う二酸化炭素の発生には昆虫の共生酵母が大きな役割を果たしていると考えられる。また研究代表者らは、枯死した竹に穿孔するコメツキモドキ科昆虫からもキシロース発酵性酵母を発見した。これらの結果は、自然界における難分解性バイオマスの分解に昆虫の共生酵母が広く関わっていることを示唆するものである。 キシロース発酵性酵母は木質バイオマスからのバイオエタノール製造においても重要であり、現在その有効的利用方法について多くの研究が行われている。クワガタムシ科昆虫を始めとする枯死材穿孔性昆虫の共生酵母は、それらの応用的研究に対して新たな生物材料を提供する。またこれらの昆虫とキシロース発酵性酵母との共生メカニズムの解明は、キシロース発酵性酵母の有効利用に関しても重要な示唆を与えるであろう。
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Research Products
(4 results)