Research Abstract |
唐桟(とうざん)は,室町時代よりインドなどの南方の国々からもたらされた木綿の縞織物であり,貴重な染色・織物文化財として現在に伝わっている。これまでの研究から,江戸後期の唐桟の黄色染料に,クロムイエローとよばれるクロム酸鉛PbCrO_4が使用されていることを明らかにした。織物表面には針状の結晶が多数観察され,EDXで分析すると結晶および繊維からもCrとPbが検出されたため,繊維内にも金属原子が拡散して染着していると考えられる。染色法は,酢酸鉛と重クロム酸カリウムを反応させて糸を染めているが,繊維内部で生成したクロム酸鉛がどのように存在しているかは不明である。そこで,TEMを用いて繊維内部をさらに詳しく観察した。 観察試料は,FIB法を用いて繊維の長手方向に作製した。木綿繊維の内部には多数の微細な粒子が観察される。比較的大きな針状粒子(長さ50〜100nm,幅10〜20nm)と,その周辺には,さらに微細な多角形状粒子(3〜5nm)が観察される。EDXでは,粒子からは主にPbとCrが検出され,mol濃度比は約1:1であった。針状粒子の電子回折図形を解析した結果,斜方晶PbCrO_4と一致した。一方,微細な多角形状の粒子からは,明瞭な電子回折図形が得られなかったため,結晶格子像を撮影して解析を行った。解析の結果,単斜晶PbCrO_4と一致した。針状粒子の多くは,繊維の長手方向に沿って平行に分布しているが,結晶粒子が渦巻状に不均一に分布している領域もある。木綿繊維は,高純度のセルロースであり,結晶とアモルファスからなると考えられている。一般的に,結晶などの析出物は,粒界などの不完全な場所で,核生成し結晶成長しやすいことから考えて,アモルファス領域およびクラックなどのさらに大きな欠陥と思われる領域に染料分子が入り込んで結晶化したと考えられる。
|