2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J07577
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
斎藤 彰宏 Waseda University, 教育・総合科学学術院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 光合成 / 鉄欠乏 / オオムギ / 集光性アンテナ蛋白質 / 光ストレス / ステート遷移 |
Research Abstract |
植物において鉄は光合成や呼吸などの機能に必須な役割を担っており、鉄の獲得が困難となる環境下では著しい生育阻害が見られる。さらに、長期的な鉄欠乏下では鉄を多量に必要とする光合成電子伝達系の蛋白質複合体で量的な平衡関係が崩れるため、日中の光条件の下で光酸化ストレスが発生し葉はネクロシス(細胞死)を生じる。これに対し、オオムギは深刻な鉄欠乏クロロシス(黄白化)症を呈した葉でも、長期にわたり光合成を維持しながら生育を持続することができる。本研究ではこうしたオオムギ葉の鉄欠乏耐性に着目し、幅広い観点から鉄欠乏への適応機構を調べることにした。 本研究の中で、光合成アンテナ蛋白質をコードする遺伝子Lhcb1の発現量が鉄欠乏で大きく上昇することを見出した。植物体内でのLhcb1は光捕集の役割を担っているが、光エネルギーの供給量が過剰な条件(強光下)では、過剰光を熱エネルギーに変化して放散する機能も持ち合わせている。そこでLhcb1蛋白質を蓄積できない変異株chlorinaを用いて解析したところ、鉄欠乏性の光ストレスに対して熱放散機構が誘導されず、長期の鉄欠乏下で生育させると新葉の枯死が見られた。次にLhcb1の構造的な特徴に着目したところ、鉄欠乏誘導性Lhcb1は三量体化に必要なN末端の配列部位が疎水性に富んでおり、三量体形成が起こりにくいことが示唆された。実際に単離したLhcb1は鉄欠乏では多くが単量体となっていることが確かめられた。さらに葉緑体内のチラコイド膜上におけるLhcb1蛋白質の局在性がグラナからストロマラメラへと大きく変化しており、光エネルギーが光化学系IIに伝達されにくい状態へ遷移していることが予測できた。これらの結果より、鉄欠乏下では鉄獲得機能のみならず、光合成のエネルギー利用を最適化する機構がオオムギの鉄欠乏耐性機構の一端を担っていることが明らかになった。
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