Research Abstract |
私は,偏微分方程式に関する逆問題をテーマにして研究を行っている.その中でも,グラフ上の偏微分方程式に関しては,まだ未解決の問題が多い.本年度は,そうした問題に関して,文献調査を主に行った.当初,私はグラフ上の線形の方程式について研究することを中心に考えていたが,非線形の方程式に関しても様々な問題が存在する.例えば,脳神経細胞のネットワークについては,神経細胞の活動電位をモデル化した,非線形方程式系であるFitzHugh-Nagumo-Rallモデルをネットワーク上で考えることが重要である.こうした問題に関しては,順問題,つまり,解の存在や一意性に関する研究しかなく,モデルに現れる係数を決定するなどといった逆問題についてはまだ未開拓である.今回の文献調査によって,グラフ上の非線形方程式に関しての理解を深めることが出来た. また,それと同時に,粘弾性体の変位を記述するモデルであるKelvin-Voigtモデルに関して,その係数決定の逆問題を考察した.このモデルは,がん細胞の検出などに有効な弾性率計測法(elastography)の基礎となるモデルであるため,医療分野において大変重要である.私は,このモデルについて,領域の境界において変位を観測することにより,粘性係数と弾性係数が一意に決定されることを示した上で,さらにその決定問題の安定性までを示した.これによって,数値計算等の解法に対して,一定の数学的保証を与えることができるようになった.またこの問題自体は,グラフ上ではない,通常の三次元の領域上の逆問題ではあるが,こうした古典的な逆問題に関する知識を深めることは極めて重要であり,グラフ上の逆問題を考える上でも,多くの示唆を与えるものと期待される.
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