2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J07581
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上坂 正晃 The University of Tokyo, 大学院・数理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 逆問題 / 偏微分方程式 |
Research Abstract |
本研究のテーマは偏微分方程式に関する逆問題である.逆問題とは,偏微分方程式系で記述される物理的,工学的現象において,解の一部および解に関わる観測データから,系の物理的定数や領域形状などの未知量を決定する問題ということができる.逆問題研究において大切なのは,実際に問題に対する解が一意に決定できるか,そしてその解は適切なノルムのもとで安定になるかということである.本研究において主眼としているのはこの一意性と安定性の数学的保証である. こうした逆問題において、基本的な手法となっているのが、Carleman評価と呼ばれる、偏微分方程式の解に対する先験的な不等式評価である。昨年度の研究において、私は粘弾性体のモデルの一つであるKelvin-Voigtモデルにおいて、そのCarleman評価を確立するとともに、粘性係数と弾性係数を推定する逆問題にそれを応用した。 本年度の研究においては、人口動態モデルについて、Carleman評価およびそれを応用した係数決定逆問題について考察を行った。人口動態モデルにおいては、年齢別の人口密度を考慮する必要があり、そうしてモデルを作ると、「超放物型」と呼ばれる偏微分方程式系が出現する。私は、この超放物型偏微分方程式系におけるCarleman評価を確立した。そしてそれを用いて、領域の境界の一部での人口発展を観測し、モデルに出現するパラメーターを観測するという係数決定逆問題に関して、その一意性と条件付き安定性を証明した。これによって、数値計算などによる逆問題解法に数学的基礎を与えることができるようになった。超放物型偏微分方程式に対する逆問題の研究は論文数も少なく、まだ解決するに値する問題は多く残されており、これからの発展が期待される部分である。
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