2008 Fiscal Year Annual Research Report
個別から普遍への移行を問題化する文学論の諸相-ジョルジュ・バタイユを起点として
Project/Area Number |
08J07672
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石川 学 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 文学論 / ジョルジュ・バタイユ / 精神分析学 / 無意識 / 共同性 / フランス / 社会学 / 民族学 |
Research Abstract |
とりわけ第一次大戦以降のフランス文学者による精神分析学受容の様態を検討し、彼らの関心が、個の解消によって特徴づけられる集団心理の問題、そうした心理が個に根ざす場としての無意識の問題に向けられていることを確認した。そのうえで、このような関心が、集団的昂揚のうちに人間の共同性の源泉をみる社会学・民族学の問題意識、ベルグソン哲学の問題意識と繋がれており、時にファシズム運動の肯定やそれへの積極的参画に帰結しうる性格を持つものであったことを解明した。文学者の無意識理解と共同性をめぐる知見・思索との連絡はこれまで深く問われたことがなく、当研究の重要性は明らかである。 以上の成果を踏まえ、上記文学者たちと問題意識を共有する、第二次大戦開戦以前のジョルジュ・バタイユの思想の検討に移り、人間の無意識的連帯を社会や国家といった上位価値を否定し、弁証法的に揚棄する共同性として提起する点、そうした見地から、集団的情動に基づく連帯を実現するかに見えてそれを絶対的指導者に従属させるファシズム、無意識を美という上位観念に従属させるシュルレアリスムへの糾弾を行う点に、この作家の主張の独自性が存していることを明らかにした。 引き続いてバタイユの思想的主著である『無神学大全』三部作(1943-45年)を考察の対象とし、それらにおいて提示される、「普遍への回帰」としての共同性観念の分析を行った。自ら指導した反ファシズム運動の挫折と敗戦経験を経て、この作家が、共同性の現実化の断念のもとに、共同性の不在を個の起源たる普遍の喪失と読み替え、そうした起源を取り返す経験として、プルーストの描く無意志的回想と恋愛における無意識的結合とを提示するにいたる論理過程を詳らかにした。そのうえで、普遍への回帰を表象する可能性に文学全般の可能性が見出されているとの着目から、第二次大戦後のバタイユの文学論を捉えなおす試みを開始した。
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Research Products
(2 results)