2009 Fiscal Year Annual Research Report
神経疾患への運動効果と環境による影響~タンパク質品質管理の視点から~
Project/Area Number |
08J07869
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安藤 麻美 (小黒 麻美) The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 運動 / 神経精神疾患 / トランスジェニックマウス / 環境 / 行動実験 |
Research Abstract |
研究計画にあった2年目以降の目標では、スクリーニンクの結果から、精神神経疾患のモテルマウスを作製することを計画していた。本研究では予想以上に計画が進み、既にこのマウスの作製は終わり、現在は行動解析を行い、アルツハイマー病を含めた精神神経疾患のどの病気のモデルであるかの同定を行っている。 現在までに行った研究ではCYFIP1を過剰発現させたBacトランスジェニックマウスの作製に成功した(Oguro-Ando & Geschwind, Unpublished)。作成した6lineのマウスは近接した他の遺伝子は一切含まず、それぞれが独特のintegration siteとコピーナンバーを持ち、そのうち2つのlineでは安定したCYFIP1の過剰発現が見られた。そこで申請者はこの2つのlineを用いて、不安行動、社会的相互実験等を含めた精神神経疾患に関する行動実験を進めている。現在までにはいくつかの行動実験で、既に行動異常が認められており、今後詳しく追及していく予定である。 さらにこのCYFIP1トランスジェニックマウスを用いて、これら行動実験だけでなく、病理学的な解析も行っている。すでに得られた実験結果から、CYFIP1遺伝子が過剰発現することにより、神経細胞の形態学的な異常が確認された。これはSY5Y細胞株と初代培養細胞の両方で確認された結果であり、今後の研究に非常に重要な手掛かりとなる。またトランスジェニックマウスの脳では、前頭葉と小脳で形態異常が確認された。この形態異常はどの経路からくるものなのかを確認するため、現在はそれぞれのマウスの発達段階における脳のサンプルを用いて、DNAマイクロアレイによる遺伝子解析と、発達段階における形態異常をそれぞれ検討している。 さらに得られた興味深い結果の一つに、"性差におけるCYFIP1遺伝子の発現差異"がある。精神神経疾患の先行研究では、自閉症を呈する15q重複症例の全員が母親由来であり、この部分の自閉症易罹患性遺伝子座はimprinting現象に基づくことが示唆されており、自閉症の4分の3は男性であるが、自閉症に関連した性染色体の染色体異常はまれである。このことから別の染色体や遺伝子が関与していることが以前から予想されていた。しかしながら現在に至るまで、性差に関する候補遺伝子はいまだ報告がない。我々がターゲットとするCYFIP1は、X染色体に関係するFMR1結合パートナー遺伝子であり、機能も神経細胞内の局所翻訳などFMR1との複合体で寄与している(Napoli et al,. 2008)。このことからCYFIP1の性差における発現差異は、自閉症の発現性差を解くカギとなる可能性が高い。現在は、自閉症患者とトランスジェニックマウスの脳を用いて、性差における遺伝子発現の解析を進めている。さらに今後は予定通り、このマウスモデルを用いて、コントロール群、投薬群、回転ケージによる運動群、回転ケージによる運動+投薬群に分け、同定した遺伝子の発現量変化を調べ、どのような強度の運動が発症年齢を遅らせるのに有効であるか、また発症後のリハビリテーションに有効であるかを調べるために、生化学的手法、行動解析手法を用いて検討することを予定している。
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