Research Abstract |
沿岸域は地圏・水圏・大気圏の交わる場所で,地球表層環境において最も変化に富む領域である.刻々と変化する気象・海象の影響を受けて,沿岸域では堆積や浸食といった地形変化が頻繁に生じている.そのため,沿岸域に生息している底生生物は,それらに適応した生態を有していると考えられる.しかしながら,自然条件下では,地表面下の生物の生態を直接的に観察することは極めて難しい.そのため,埋在性の底生生物が地形変動に対してどのように応答しているかは,ほとんど未解明であった. そこで,本研究では,生物が堆積物に残した痕跡,すなわち生痕に着目した.生痕を解析することで,地表面下に隠された生痕形成者の行動様式を読み取ることができる.本研究では,最も激しい地形変化が起こる海浜環境に生息する埋在性多毛類Euzonusの生態を,その生痕の解析を通じて明らかにし,埋在性底生生物の生態-地形変動作用の関係について検討した. 調査の結果,海浜地形動態に呼応してEuzonusの生息幅が変化していることが明らかとなった.すなわち,海浜勾配に対して,Euzonusおよびその生痕の分布幅は負の相関を持つ:海浜斜面が急になると,Euzonusおよびその生痕の分布幅は縮小する傾向が見られた.逆に,海浜斜面が緩やかになると,より幅広いEuzonusおよび生痕の分布が見られた,このことから,海浜形状の変化が,Euzonusの分布幅-すなわち海浜堆積物中の間隙生態系の分布幅を増減させていることが示唆された. また,地層中の海浜堆積物の観察から,地質時代のEuzonus(生痕化石Macaronichnus segregatis)もまた,海浜地形に応答してその行動様式および分布幅を変化させていたことがわかった.
|