Research Abstract |
慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)における慢性炎症の治療は,多くの患者においてステロイドが無効であるために困難を極めていたが,近年の報告により,ヒストン脱アセチル化酵素であるHDAC2がCOPD患者におけるステロイド感受性を制御することが明らかになり,新規COPD治療薬の標的として提起された.しかしながら,HDAC2の活性制御機構はほとんど明らかになっておらず,ましてやその発現制御機構に関しては一切明らかになっていない. 本課題では,第一にCOPD患者の気道病態モデルとして,気道上皮細胞に対して小胞体ストレス誘導剤処理を行い,そのHDAC2発現への影響を検討した.その結果,小胞体ストレス誘導剤の用量依存的にHDAC2タンパク質発現量の減少が見られた.そこでメカニズム解明を目的として,詳細な検討を行ったところ,小胞体ストレスは,HDAC2のmRNAではなくタンパク質レベルでの分解促進を引き起こし,発現量を減少させることが明らかとなった.さらに,HDAC2の発現減少と逆相関し,ヒストンH3のアセチル化が亢進することも明らかにした.以上の研究は,COPD患者におけるステロイド感受性を小胞体ストレスが制御する可能性を示唆した有用な知見である. 第二に,HDAC2発現制御薬またはHSP72を標的とした活性制御薬の薬効評価モデルの構築を目的とし,COPDモデルマウスの作製に取り組んだ.近年の報告により,β-ENaCの過剰発現マウスが,COPD様の諸症状を示すことが報告された.しかしながらこのモデルマウスは,4週齢までに60%が死に至るという問題が生じていた.そこで申請者は,気道病態に耐性のあるC57BL/6マウスと交配を重ねることで,低致死率β-ENaC Transgenicマウスの作製を試みた.その結果,致死率が改善し,6%以下まで下げることが出来た.致死率は低いものの,粘液の貯留等の気道病態を呈しており,薬効評価モデルとして十分貢献できるものが完成した.
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