Research Abstract |
慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)における慢性炎症の治療は,多くの患者においてステロイドが無効であるために困難を極めていたが,近年の報告により,ヒストン脱アセチル化酵素であるHDAC2やSIRT1がCOPD患者におけるステロイド感受性を制御することが明らかになり,新規COPD治療薬の標的として提起された.しかしながら,HDAC2やSIRT1の発現制御機構はほとんど明らかになっていない.これまでに本申請者は,気道上皮細胞に対して小胞体ストレス誘導剤処理を行い,そのHDAC2発現への影響を検討してきた.その結果,小胞体ストレス誘導剤の処理によりHDAC2タンパク質発現量の減少が見られ,そのメカニズムが,小胞体ストレスによるHDAC2のmRNAではなくタンパク質レベルでの分解促進であることを明らかにした. そこで本年度は,エネルギー依存性ヒストン脱アセチル化酵素SIRT1に対する小胞体ストレスの影響を検討した.気道上皮細胞を用いたin vitroの系において,HDAC2とは異なりSIRT1は,小胞体ストレス誘導剤の用量,または処理時間依存的にmRNAレベル,タンパク質レベルで発現が誘導された.小胞体ストレス負荷マウスを用いたin vivoの検討でもSIRT1は,mRNA,タンパク質の両方で,有意に発現が誘導された。さらに,このメカニズムを明らかにするため,小胞体ストレス主要三経路の関与を検討したところ,XBP1経路の関与が示唆された.最後に,誘導されたSIRT1が小胞体ストレス時に何をしているか明らかにするために,特異的阻害剤であるEX527を用いて検討したところ,SIRT1が小胞体ストレスにより誘導される細胞死を促進することが明らかになった.本研究は,COPD病態における小胞体ストレスの重要性を提起した重要な知見であり,小胞体ストレスやSIRT1といった新規COPD治療戦略を示唆した有用な知見である.
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