2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J08219
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
齊藤 安潔 Nagoya University, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | プラトン / オルペウス教 / 哲学 |
Research Abstract |
プラトンの宗教思想に大きな影響を与えたと考えられるオルペウス教の概要を把握することを主な目標とした。オルペウス教は一次資料の少なさゆえにその実態が極めて不明瞭な思想運動であり、実在したのかどうかを疑う研究者もいるほどである。しかし、GuthrieがOrpheus and Greek Religionにおいて描いたオルペウス教の概要は、その後に出土したさまざまな骨板や黄金板、そしてデルヴェニ・パピルスといった一次資料の内容と符号する。これらの出土地はギリシアの全域に渡っており、オルペウス教が確かな実在を持った宗教運動として、古代ギリシアに存在していたことを強く示唆している。では、オルペウス教が従来の宗教と一線を画すその特質とは何かといえば、それは死後における幸福を約束したことだと言えよう。従来のギリシア宗教において神々は現世における利益を約束するだけの存在であり、人間の死後の運命についてはさほどの関心は払われていなかった。他方、オルペウス教においては現世における人間の生は太古の罪の償いであり、罪を償わない限りは人間の魂は罰として輪廻転生を繰り返す。だが、もしオルペウス教に従って罪を償うことができれば、死後に神々の仲間として永遠の幸福を享受することができるのである。こうしたオルペウス教の特質、つまり魂の不死や輪廻転生、死後の幸福といった概念をプラトンは自らの思想に取り入れたことは間違いない。特に、ソクラテスの死を描く『パイドン』は強い宗教的色彩を帯びており、ピュタゴラスーオルペウス教の影響が色濃く認められる。Morganはその原因をプラトンのシチリア行に帰しており、当時のシチリアがピュタゴラス派の本拠地であったことを考えても、プラトンがその地でピュタゴラス派やオルペウス教の思想に触れ、その影響を受けたことは間違いないであろう。
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