2010 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属錯体およびその集合体の電子状態転移に関する理論的研究
Project/Area Number |
08J08230
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安東 秀峰 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 電子遷移 / 遷移金属錯体 / 電子励起状態 / 量子化学 / 量子動力学 / 理論化学 |
Research Abstract |
近年,さまざまな摂動(光照射,ゲスト分子吸着など)が異なる電子状態間の遷移を誘起する現象に注目が集まっており,単分子メモリー等への応用面のみならず,その機構と支配因子の解明に力が注がれている.本年度は,動力学と熱力学の観点から二件の理論的研究をおこない,その成果について論文を執筆中である,以下に,それぞれの成果について詳しく述べる. Jubanらは最近,Cr^<III>(acac)_3錯体が光照射後の緩和過程において,^4T_<2g>状態から^2E_g状態への超高速項間交差(100fs以内)をおこしていることを報告した.この項間交差は^4T_<2g>状態内での振動緩和と競合するとされ,旧来のKasha則等の知見と矛盾する.本研究では,量子化学計算と電子状態遷移をふくめた量子動力学シミュレーションにより,この原因を検討した.その結果,Franck-Condon領域とポテンシャルエネルギー面の交差点がきわめて近いことが,速い項間交差をおこした原因と分かった.くわえて,Franck-Condon領域における励起状態の擬縮退が超高速項間交差に重要であることも明らかにした.この結果は,金属錯体に特有の擬縮退性の考慮が,緩和機構の解明に不可欠であることを示唆している.以上の成果を国際学会で発表し,ポスター賞を受賞した. CS_2吸着による高スピン状態から低スピン状態へのスピン転移の機構について,エントロピーの観点から検討をおこなった.強いCS_2吸着にともなう配位子回転の抑制が,高スピン状態と低スピン状態の間のエントロピー差を小さくし,その結果,低スピン状態を安定化させている可能性があることを明らかにした.スピン転移の機構をエントロピー差との関連で理論的に研究した,数少ない研究である.
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Research Products
(2 results)