2009 Fiscal Year Annual Research Report
南方上座仏教社会における老人と介護の研究―輪廻の一場面としての老い
Project/Area Number |
08J08243
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 沙絵 Kyoto University, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | スリランカ / 老い / 宗教実践 / 南方上座仏教 / 民族誌 / 介護 / 高齢者福祉 |
Research Abstract |
21年度は、スリランカ社会における老いの在り様を広い文脈から理解するため、都市部老人ホーム、都市部、及び農村部の3地点でフィールドワークを行った。高齢者問題が浮上しつつあるスリランカにおいて、家庭や地域でどのような軋轢や試行錯誤がなされているのか、報告書や国際会議発表という形で中間報告を行った。 年度後半は、特に高齢者の治療行為及び宗教実践、およびそれらについての「語り」に焦点をあて、老人ホームを中心に参与観察を行った。フィールドで遭遇した老いや介護の現実は、いずれも病(やまい)や苦悩、不安や喪失といった状況から出発していたが、こうした高齢者の生活の場には、あらゆる宗教的事物やナラティブも散りばめられていた。例えば、老人ホームでの習慣となっている朝・夕の花供養は、儚い花の命を朽ちゆく人の命にみたてた行為である。それは、苦悩を抱えながらも命が消えてなくなった後の世界に思いをはせて、今日一日をていねいに美しく過ごす心の準備をする時間である。ここに立ち現われるのは<今-ここ>の苦悩の経験、そこからの解放という視点からあの世の地点へと想いを馳せ、あの世の地点から再び<今-ここ>を顧みるという循環的な時間である。 しかし、このような老人の宗教実践は意識のある段階でのことであり、思考力が低下すると、第三者は彼・彼女を宗教的意味世界の周縁へと追いやる。その背景には「からだは朽ちても、頭は努力や業(ごう)によっては朽ちることがない」という身体観・健康観が作用している。このような身体観や健康観をふまえつつ、この世が相対化されるそのあり方と、老いや介護の経験との連関を解明することが、本研究のより広い問題関心だといえる。この問いに向き合うことで、サクセスフル・エイジング等の老年学的概念を反照するような比較文化研究としての意義をもちうるのではないかと考えている。
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Research Products
(2 results)