2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J08879
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 雅浩 Keio University, 経済学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 精神医学史 / 歴史社会学 / 医学的知識の社会学 / 外傷性神経症 / トラウマ / PTSD / 精神疾患 / メンタルヘルス |
Research Abstract |
本年度の研究成果は、戦前期日本における外傷性神経症(Traumatic Neurosis)に関する歴史社会学・知識社会学的研究と、明治期の精神疾患に関する新聞報道の分析に分けられる。前者に関しては、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の先行概念と見なされる「外傷性神経症」という疾患概念の歴史を分析し、近代日本における同疾患の成立・衰退過程を考察した。外傷性神経症という疾患は、1910〜20年代の日本で医学者たちの注目を集めた神経学的疾患であり、とくに国有鉄道の鉄道医たちが中心となって研究を遂行していた。鉄道医たちがこの疾患を研究した理由は、当時の国鉄が手厚い福利厚生制度を有しており、労災補償の給付基準を明確化する必要があったからである。こうした政策的要請によって開始された戦前日本の外傷性神経症研究は、結果として同疾患を<補償を求める患者の欲望が生み出す病>という心因論的解釈へ落とし込むことで、次第に医学研究の後退を導いた。こうした事例からは、特定の疾患が研究される際には研究主体を取り巻く政治経済的要因が重要な規定因となっており、またその疾患の社会的意味づけや研究の帰結も、当該社会の政治的な環境に影響を受けることが分かった。後者の新聞報道の分析に関しては、数千件の明治〜昭和期の精神疾患に関する新聞報道資料を収集し、主として明治前半における精神疾患の報道のされ方を考察した。その結果、当時の新聞紙上で語られていたのは、「狐憑き」などの憑依現象を「神経病」として語る啓蒙的言説と、精神疾患に陥ったとされる者の逸脱行為の報道であることがわかった。また旧刑法の施行と前後して、新聞紙上でも精神鑑定の模様が報道され始めることが確認された。
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Research Products
(3 results)