2009 Fiscal Year Annual Research Report
金融市場の複雑なゆらぎが生み出す暴騰・暴落の動力学の解明とその制御方法の構築
Project/Area Number |
08J08967
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
渡邉 広太 Tokyo Institute of Technology, 大学院・総合理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 経済物理学 / 金融市場 / 価格変動モデル / 暴騰暴落 / ポテンシャル / 統計物理学 |
Research Abstract |
具体的な研究成果としては、1本の査読付き国際論文誌、1本の査読付き国際学会プロシーディングス(内1本は共著)への採択が挙げられ、さらに2本の論文を投稿準備中である。内、11.研究発表[雑誌論文]の1,2は本課題において特に重要な成果として挙げられる。論文1では、高安美佐子らによって提案されていた価格変動モデルであるPUCKモデルを非線形モデルとして拡張し、高頻度データの実証分析の観点から統計的有意に非線形項を観測できる事を示した。この非線形モデルは、金融市場の価格変動の中でも、特に価格が方向性を持って動く、典型的には暴騰暴落のような現象を記述するためのモデルであり、非線形項の観測は、データからそのような方向性を持った価格変動を定量化するための新しい手法として、市場のリアルタイムモニタリング、および市場安定化のための施策を構築するための重要な手がかり、指標となると考えられる。論文中では、モデルのモンテカルロシミュレーションと動力学解の考察をすることで、既存の実証研究において指摘されている暴騰暴落における動力学変動関数形(2重指数関数、有限時間発散)を発生させるダイナミクスを持つことを示した。本手法は、現在マクロ指標などの市場外部からの擾乱の影響の定量化手法や、株式市場の暴騰暴落へのアプローチ手法としても応用を始めている。 論文2の共著論文では、PUCKモデルのパラメータの時間発展モデルを構築することで、モデルのモンテカルロシミュレーションから得られる仮想的な価格変動が、実際の金融市場価格変動の統計的性質を幅広く満たすことを示した。具体的には1)価格差のベキ分布、2)volatilityの長期記憶、3)価格差の短いスケールでの負の相関、4)価格の短い時間スケールでの異常拡散、5)価格の上昇下落の条件付き確率である。 このような市場の経験則を幅広く満たす価格変動モデルはほとんどないといって良く、多くの既存研究ではあまり考慮されてこなかった価格の上昇下落の相関性も取り入れた、数少ないモデルである。論文中ではモデルが幅広く統計性を満たすモデルであることを、理論解析、モンテカルロシミュレーション両面のアプローチから示しており、PUCKモデルについて体系だった内容となっている。このモデルによって、実市場価格変動の拡散を精度良く評価できることが見込まれることから、金融保険商品のプライシングなど実用的な分野への応用ができるとともに、人間行動モデルなどと組み合わせることにより、PUCKモデルパラメータをもとに市場の制御やシステム、ルールの考案などの幅広い分野へのインプリケーションを提案できると考える。
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Research Products
(4 results)