2008 Fiscal Year Annual Research Report
日常生活世界における自殺現象の統制・合理化活動の展開-常識知と相互作用の政治性
Project/Area Number |
08J09027
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
藤原 信行 Ritsumeikan University, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 自殺 / 動機の語彙 / 自死遺族 / 医療化 / 心理学化 / 心理主義化 / 生活世界 / 常識知 |
Research Abstract |
研究代表者は上述の研究課題を達成するため、1、日常生活世界における人々の、常識知を参照して遂行される(とくに事後的な)自殺の統制・合理化活動の実態解明、2、日常生活世界における実践にたいする、精神医学的知識がもたらす影響と社会的帰結の解明、を具体的課題として挙げた。平成20年度は以下の成果があった。 1.(1)脳血管障害により失職、その後自殺した既婚男性の遺族らに実施したインタビュー内容を検討した。遺族らは、既婚男性にとって<一家の大黒柱役割の喪失>が自殺するに値する動機であることを自明視する一方で、それを白身が直面した具体的な<意味ある他者>の自殺動機として付与することは、より個別具体的で文脈依存的な知識に言及することで回避する傾向にあった。(2)これまでインタビューに応えた自死遺族のなかには、自殺にかんする精神医学的知識を参照して自らの経験を語る者たちも存在した。同様の知識を参照しているものの、個別具体的な文脈の違いにより遺族らの語りには大きな差異があった。ある遺族はその知識を参照することで、うつ病と自殺のサインを発見できなかったとして自責の念を強めていた。別の遺族はその知識を参照することで、自殺を<日常生活世界において生じうること>と認識してそのサインに注意を払い続けたのだから、自殺を防げなかったにせよ近親者として果たすべき義務は全うしたと考え、自責の念にとらわれることはなかった。 2、自殺にかんする精神医学的知識の内容は、一般読者向け啓蒙書を検討するかぎり<うつ病の早期発見と治療><家族員による適切なサポート>により自殺は予防可能というもので、これまで社会学領域における医療化論や心理学化/心理主義化の議論において指摘されてきた<社会問題の個人化>なる側面を共通して見出すことができた。だが他方で行政・労働・教育・福祉の現状批判という<社会問題の個人化>にとどまらない指摘を含んだ文献も少なくなかったことに注意する必要もあろう。
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