Research Abstract |
本年度は,文脈手がかり効果と単純接触効果を同時に測定する実験パラダイムの開発を目的とした実験が行われた。実験は,学習,好意度評定,再認の3段階から構成された。学習段階において参加者は11個の妨害刺激"L"と1個の標的"T"を提示され,標的をできるだけ速く検出するよう求められた。全試行の内半数の試行では,12種類の配列画面が繰り返し提示され(Old条件),残りの半数の試行では常に新奇な配列が提示された(New条件)。続く好意度評定および再認段階において参加者は,Old条件とNew条件の配列を一度ずつ提示され,配列画面に対する好意度評定あるいは再認を求められた。実験の結果,学習段階では,Old条件における標的検出時間がNew条件におけるそれと比較して有意に短く,両条件の差は学習段階の進行と共に増大することが明らかにされた。さらに,再認段階の結果から,参加者は反復提示されたOld条件の配列と新奇のNew条件の配列を顕在的には区別できないことも確認された。これらの結果は,一般的な文脈手がかり効果を再現していると言える。一方,好意度評定段階において参加者は,Old条件の刺激画面をNew条件のそれと比較して,より嫌悪的に評価することが明らかにされた。同一刺激の反復提示による好意的評価の低下現象(つまり,負の単純接触効果)の生起原因については,心的飽和や注意の抑制処理など,いくつかの仮説が存在している。今後は,本実験で認められた負の単純接触効果現象の生起過程を解明するとともに,負の単純接触効果と文脈手がかり効果が同時あるいは個別に生起する条件を探索することで,反復接触によって蓄積された視覚記憶痕跡が,注意および情動的価値判断機能に個別にあるいは共通して与える影響を明らかにすることが可能となる。
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