2009 Fiscal Year Annual Research Report
「性病」と帝国―ロシアから日本への「検黴」制度の伝播とその後―
Project/Area Number |
08J09621
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮崎 千穂 Nagoya University, 国際言語文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 近代史 / 異文化交流 / 日露関係史 / 帝国医学 / ロシア / 開港場 / 長崎 / 検黴 |
Research Abstract |
本研究は、西欧から日本、日本からその植民地(朝鮮・台湾・満州)へとグローバルに連鎖していった「検黴」(梅毒検査)制度を手がかりに「性病」のありようを考察し、帝国医療おける「性病」の地位、特殊性を明らかにし、医療・衛生の観点より「帝国」を捉えなおすことをめざすものである。 本年度の研究目的は、ロシア帝国の医療の一端としての在長崎ロシア海軍病院(1860年より1904年まで存在)の医療について解明することであり、具体的には、ロシア艦隊所属軍医の地位、在長崎ロシア海軍病院における医療実践の実態を明らかにすることであった。とりわけ、長崎にて検黴を伝えたとされるリハチョーフ艦隊の医療責任者メルツァーロフの「航海医学日誌」を中心に、彼が在長崎ロシア海軍病院においていかなる医療実践を行ったのか考察した。その結果、メルツァーロフが日本で「拡大」している梅毒に非常に強い関心を寄せ、その治療実践についても他の病気とは比較にならないほど特に詳しく記述していたことが判明した。梅毒に対し強い関心(治療実験、蔓延の原因)、日本の梅毒への危機感を抱いていたといえる。メルツァーロフの梅毒に対する医療実践の記録の特徴は、治療対象が男性のみに限定されており、さまざまなメソッドが試用されていることである。女性の治療は海軍医学において重要性が低いと判断され病原視されたのであり、このことはロシア艦隊が日本で初めて梅黴を現地の日本女性に実施するに至ったことと深い関連がある。また、長崎における治療実践では、アジアにおける熱病との合併症治療の重要性が発見された。当時、ロシアの海軍医学において梅毒対策の重要性が叫ばれ始めており、かようなメルツァーロフの医療実践とその際のまなざしは、ロシア海軍のアジアにまで及ぶ遠洋航海の初段階にあって、その後のロシア海軍医学、そしてロシアの帝国医学のあり方に寄与する実践であった位置付けることができる。
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Research Products
(3 results)