2010 Fiscal Year Annual Research Report
「性病」と帝国―ロシアから日本への「検黴」制度の伝播とその後―
Project/Area Number |
08J09621
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
宮崎 千穂 名古屋大学, 大学院・国際言語文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 近代史 / 医学史 / 日露関係史学 / 帝国医療 / 梅毒検査 / ロシア |
Research Abstract |
1.平成21年12月より同23年5月(研究再開支援期間同23年4・5月)まで出産・育児のために中断していた研究課題を同年6月より再開し完成させた。(1)「日本最初の検黴(梅毒検査)」は幕末の長崎においてロシア艦隊が実施したとされるが、当時の艦隊医七等文官メルツァーロフД.В.Мерцалов(1827-94)が『航海医学日誌』に記した長崎における医療実践記録を分析すると、それは梅毒および肺病に病める長崎を描き出すものであったといえる。メルツァーロフは、医学的に支配すべき日本を病身化して西欧医学という「文明」の光により制圧すべき病と「救済」すべき〈日本人〉を見出したが、かような医学的知の営みは、極東進出時のロシアの帝国医療を考えるうえで意義深いものである。(2)19世紀から20世紀にかけての日本において梅毒と結核は「国民病」として君臨したが、それらの「国民病」化がメルツァーロフ等外国艦隊医等の思想に端を発することが明らかとなった。このことは、その思想が今日まで母子保健法施行規則に継承されていることを考えれば、現代的な意義が見出せる。(3)検黴を強制されたロシア水兵相手の長崎の遊女が恥を知らない最下等の娼婦として蔑視されるようになったことが明らかとなったが、このように近代日本における娼婦の賤業化が西欧医学の観点から始まったことは注目される。 2.最終年度の課題(研究中断のため次年度5か月間延長し研究継続予定)も開始し、在長崎ロシア海軍病院における梅毒医療をロシア帝国医療全体の中で位置付けるため、他のロシア軍港における梅毒医療との比較研究を進めている。
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Research Products
(2 results)