2010 Fiscal Year Annual Research Report
銀河中心をとりまく星間空間からの広がったX線放射:新しい粒子加速機構に迫る
Project/Area Number |
08J09647
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
湯浅 孝行 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | X線宇宙物理学 / 白色矮星 |
Research Abstract |
銀河中心や銀河面に沿って観測される、見かけ上広がったX線放射(銀河系X線背景放射)の放射起源・放射機構を、分光的な手法を用いて解明するため、広帯域・高感度を特徴とする「すざく」X線衛星の複数の観測をスタックし、合計100万秒というひじょうに長い積分時間のデータを構築した。背景放射の解析でノイズとなる、中性子星連星やブラックホール連星などの明るいX線点源からの寄与を注意深く排除した結果、6-7キロ電子ボルト帯域にみられる複数の電離状態の鉄からの原子輝線放射を分解すると同時に、これまで観測の難しかった50キロ電子ボルト以上の硬X線帯域のスペクトル形状を、高い統計精度で測定することができた。 本背景放射については、高空間分解能のChandra衛星を用いた観測から、暗いX線点源が主要な放射源であることが示唆されている(Revnivtsev et al. 2009, Nature)ものの、白色矮星連星系や太陽のような普通の星からのコロナX線放射だけで、スペクトルまで含めて説明できるかどうか、未解明であった。そこで、本年度の研究では、各種天体の背景放射への寄与を切り分け、また、未知の放射性分の有無を調べるため、とくに10キロ電子ボルト以上の帯域で唯一の放射源となりうる強磁場白色矮星連星系について、X線放射機構を数値的にモデル化した。このモデルは、白色矮星質量を主な自由パラメタとして含んでおり、地球近傍の17の個別天体の「すざく」によるX線スペクトルをよく再現した(Yuasa et al. 2010, Astronomy & Astrophysics)。先に抽出した、X線背景放射のスペクトルにこの白色矮星のスペクトルモデルを適用したところ、モデルは硬X線帯域でのスペクトルの形状を良く説明し、背景放射に寄与している白色矮星の平均質量が0.66(0.59-0.75)太陽質量と推定できた。10キロ電子ボルト以下の帯域では、白色矮星モデルだけでは背景放射を説明できず、~1.5キロ電子ボルト程度の温度を持つ(低温のプラズマ放射を示唆する形状の残差が見られた。この値は、コロナX線天体の典型的な温度とよく一致しており、この2成分だけで2-50キロ電子ボルトという広いエネルギー帯域にわたって、背景放射のスペクトルを、ひじょうによく説明できた。 今回のスペクトル解析の結果は、Chandra衛星の撮像観測の観測と相補的であり、これらの結果から、X線宇宙物理学における40年以上謎だった銀河系X線背景放射の起源が、暗いX線天体の集合であると考えてほぼ間違いないことが明らかにすることができた。
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Research Products
(1 results)