2008 Fiscal Year Annual Research Report
社会的排除を助長する福祉政策:アメリカのホームレス問題に着目して
Project/Area Number |
08J09706
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
野田 博也 Tokyo Metropolitan University, 人文科学研究科, 特別研究員(DC2) (00580721)
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Keywords | アメリカ / ホームレス / 貧困 / 福祉政策 / 劣等処遇 / Bentham |
Research Abstract |
1.アメリカにおけるホームレス福祉政策については、連邦政府による3つの政策を対象カテゴリーから分析し、次いで、その政策原理を改めて考察した。まず、マキニー-ベント法による政策では、「ホームレス状態」それ自体には応急援護にとどめ、それ以上の給付は特定の集団に限って扶助や社会サービスの延長として実施していた。また、「若年ホームレス」と「退役ホームレス」への政策は異なる連邦法に規定されており、それぞれ非行化など治安問題の予防や保護、国家への軍事貢献に対する補償や保障を行っていたことを指摘した。そして、その福祉政策を包括的にみると、稼働能力と軍事貢献から分けた対象カテゴリーに応じて、利用できる事業に格差のあることがわかった。また、その政策原理については、自助原理と軍務に関する貢献原理が福祉政策全体にわたって明示的に現れていたことを明らかにした。 2.定住的貧困に対する福祉政策については、連邦議会調査局の支出データをもとにアメリカの公的扶助の支出の分析を進めた。アメリカの公的扶助は80以上の事業によって構成されているが、その支出総額は連邦支出全体の2割近くにも達していた。その事業内訳をみると、メディケイドや補足的保証所得、勤労所得税額控除など一部の事業が多くを占めていたことがわかった。 3.社会的排除を助長する福祉政策のあり方に関する理論研究については、その予備的考察として「劣等処遇」を改めて論じた。Benthamの見解を参照し、「劣等処遇」には、給付の量的側面だけでなく、給付の方法の質的側面があることを指摘した。この「劣等処遇」の在り方と、現代における社会的排除を助長する福祉政策との関係を考察する作業は、今後の課題となる。
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