Research Abstract |
図や表といった外的表象は,問題解決における有効な道具であることが様々な領域において示されている。しかし,現在の日本の学習者は,外的表象を自発的に活用する力は十分ではないことが明らかとなっている。こうした問題を解決するために,外的表象が自発的に利用されるようになるプロセスや,外的表象を自発的に活用する力(外的活用活用方略を利用する力)を育成する指導法の開発を行っている。本年度の成果は,1)実験・調査によって外的表象の利用促進メカニズムを明らかにしたこと,2)実践研究によって基礎研究の知見を現実的な教育場面に応用するとともに,実践のプロセスから新たな要因の可能性を示唆したこと,の2つに分けられる。1)に関しては,外的表象は「個人の問題解決の道具」であるとともに,「他者への説明の道具」であるという点に着目し,実証的な研究を行った。大学において中学生を集めて集団実験を行った結果,外的表象をコミュニケーションの道具として利用することを経験することによって,こうしたことを経験しない場合に比べて,その後の問題解決場面における自発的な外的表象の利用が活発になることが示された。これは,外的表象の利用が内化されるプロセスを明らかにしたものと言える。2)に関しては,知見を生かした授業パッケージを開発すると共に,それらを公立小学校・中学校において実施し,外的表象の利用に関する学習行動の変容プロセスを長期的な視点から明らかにした。さらに,外的表象活用方略をはじめとする学習方略が指導時とは異なる単元や教科においても利用されるようになる現象を「方略の転移」と捉え直し,こうした現象が生じる背景には,効果的な学習に対する信念である「学習観」が関連していることを実践研究によって明らかにした。これによって,新たな実践・実験の可能性が示された。
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