Research Abstract |
図や表といった外的表象を用いながら効果的に思考する力は,人間の優れた特徴の一つである。しかし,学習者は必ずしも外的表象を効果的に活用できていないという実態が明らかとなっている。本研究では,「問題解決において,自発的に図表を利用していない」という問題を解消し,外的表象を活用できる熟達した学習者を育てる指導法を開発している。本年度は,1,2年目に得られた実験・実践研究の成果を積極的に国内外に発信した。 まず,学習方略の使用には,教師からの指導法のみならず,学習者が持っている信念(学習観)が調整する可能性が示唆されている。そこで,学習観(Students' beliefs about learning)を測定するような質問紙を改良し,こうした変数が指導の効果を調整することを実験的明らかにした。さらに,従来の外的資源研究では,「個人の問題解決の道具としての図表」に注目するあまり,「他者へのコミュニケーションの道具としての図表」という側面は重視してこなかったという反省に立ち,他者との説明の道具として図表を利用することによって,自発的な図表の利用が促進することを実験から明らかにした。この研究成果は,日本認知科学会において,学会発表賞を受賞した。 さらに,教育研究が実践に寄与していないのは,学校教育への示唆を心理学的論文の中で示唆として述べるにとどまっていたからであるという反省に立ち,心理学的知見を学校実践において活用する方法を積極的に検討してきた。こうした実践研究は,従来の学術研究の中では発信されることは少なかった。しかし,実践を行うことによって従来の理論的枠組みでは不十分な点が明らかになり,新たな研究の展開も期待できる。このため,学術研究として発信することが重要であると考え,「どのような要件を満たせば実践研究として学術の世界において認められるのか」を,いくつかの実践論文を書く中で分析し,その上で本研究課題の実践研究を学術論文として公刊した。
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