Research Abstract |
図や表などの外的表象は,問題解決における有効な道具である。しかし,問題解決場面において外的表象を自発的に活用する力は十分ではないことが明らかとなっている。そこで,外的表象の自発的利用に至るプロセスを解明し,それらを踏まえて外的表象を自発的に活用する力を育成する指導法の開発を行っている。本年度の成果は,1)実験授業によって外的表象の利用を促す要因を明らかし,具体的な指導法を開発したことに加え,新たに開発された指導法によって学習者の問題解決行動がどのように変化するのかを検討したこと,2)実践研究によって基礎研究の知見を現実的な教育場面に応用したこと,3)問題解決場面のみならず,コミュニケーション場面における図表の利用の不十分さについても明らかにしたことが挙げられる。1)に関しては,これまで外的表象は「個人の問題解決の道具」であるとともに「他者への説明の道具」であるという点に着目して指導法開発を行ってきたが,指導法が学習者の問題解決行動に及ぼす影響を十分に検討してこなかった。そこで,指導後に問題を解く様子を記録したビデオを解析し,問題解決の促進に至るまでの一連のプロセスを明らかにした。2)に関しては,知見を生かした授業パッケージを開発すると共に,それらを公立小学校・中学校において実施し,外的表象の利用に関する学習行動の変容プロセスを長期的な視点から明らかにした。こうした実践の中では,必要に応じてデジタルペンなどのITも活用した。3)大学生にテキスト読ませ,その後その内容を教えるつもりで説明することを求めたところ,自発的な図表の利用がきわめて少ないことが日米の両方のデータから明らかとなった。これは,従来指摘されていた問題解決場面のみならず,コミュニケーション場面において図表の利用が少ないという新たな問題点を明らかにするものであった。
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