2008 Fiscal Year Annual Research Report
心的表象操作能力に関する新しい表現方法の創造、およびそのメディア芸術応用
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08J09766
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
齋藤 達也 Tokyo National University of Fine Arts and Music, 大学院・映像研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 身体性 / 映像中の自己同定 / 映像メディア / 感覚の拡張 |
Research Abstract |
本研究の動機を一言で言うならば、「いままでに表現や表象作用に使われてこなかった映像の未踏の側面をいかに見つけるか」という問題意識である。本論は、身体性を軸として、この問いに答えようとするものである。 映像によってあるイメージが構成され、またそれを見るものにおいてあるイメージが立ち上がる。この映像の構成力と喚起力をどこまで引き上げることができるだろうか。通例的には、喚起力のベースになっているものが、映像の「記号性(意味)」や「視覚的リアリズム」だと考えられている。それ以外の喚起の原動力になるものをどれだけ見つけられるか、これは映像によって表現を行う人間にとって、常に課題となる。 見るという行為は眼球のなかの出来事ではない。映画やゲームといった既存の形態においても、身体性を媒介として、喚起されるある種のイメージが確かに存在する。人間の内部に立ち現れる身体イメージを操作する表現は、映像とそれによって表象される観念や概念、出来事の間の記号的、インデキシカルな関係性とは全く異なる基本原理に依拠しているはずである。 この基本原理を理解するために、具体的にいくつかのインタラクティブ作品を作成し、その分析を行った。本綸文は、映像表現の内部における自己観念の生成、自動詞と他動詞という行為の二つのモード、といったいくつかの視点によって構成されている。映像と身体イメージの関係性について考えることは、それが依拠する人間の身体構造や意識の構造についても新しい知見をもたらすはずである。 本年度は、ビデオカメラによって撮影された自分自身の映像を、壁面に投影し、さらにその投影像が自分の身体的動作に応じてコンピュータによって処理された結果変化する動きを見せるというシステムを作成した。 具体的には、鳥が空を飛ふような『ハタハタ』という動作を行うと、壁面に投影された自分自身の小さなシルエットが、パタパタと飛び立ち浮遊するというものである。このシステムによって明らかになった事は、映像中に自己の身体感覚が投影され、体験した人間は実際に浮遊感覚を如実に感じるということである。この映像への自己の身体イメージの憑依感覚を利用することで新しいエンタテイメントへの応用も考えられる。実際にNTTインターコミュニケーションセンターにて「君の身体を変換してみよ展」と題し、このシステム『翔べ!小さな自分』の一般向けへお展示を行った。結果としては20000万人近い参加者の誰もが浮遊感覚を感じ自分の身体感覚が持ついままで体験したことのない可能性を感じる良い機会になった、というコメントをいただくことができた。またこの展示は平成20年度文化庁メディア芸術祭にて、優秀賞を受賞した。 上に述べた応用だけでなく、この身体感覚の拡張についての科学的分析を進めることで、自己の感覚、何か自分以外のものが自分であるかのように感じられるという現象についてもさらに理解を進める事が可能である。ゲームや映画などの映像メディアでは、よく語られる身体の憑依感覚であるが、認知科学や脳科学におけるセルフの問題、自己の身体像の問題についても、分析のための新しい実験装置を構想中である。人間において自己感覚がどのように生起するのか、またそれに関係する要素の検証、関係する人間の脳や身体のメカニズムについても分析を進めていく事を目指している。
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Research Products
(1 results)