2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
08J10127
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桑田 学 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | オットー・ノイラート / 社会主義経済計算論争 / 通約不可能性 / 自由市場環境主義 / 環境的価値 / 福祉国家 / シティズンシップ / T.H.マーシャル |
Research Abstract |
本研究は、環境経済学に見られる市場的アプローチにおける環境財の貨幣的評価や費用便益分析、私有化などの試みを、市場境界の一層の拡張ないし自然の商品化として了解し、それらの哲学的諸前提を批判的に解明することを主たる目的としている。研究目的の達成のため主に以下2つの課題に取り組んだ。 1.現代環境経済学における価値の主観主義と合理性概念の批判的考察 本研究では、現代の環境経済学における自然認識、価値概念の理論史的源泉を確認するため、1920年代から30年代に及んだ「社会主義経済計算論争」に着目し、合理的意思決定が普遍的価値尺度(貨幣価格)を必要とするという経済学における暗黙的前提の批判的分析を試みた。とくに、貨幣による価値の通約化を「似而非合理主義」として正面から批判した社会哲学者オットー・ノイラートの実物経済論を取り上げ、論敵であったハイエクの市場論と対比させつつ、前者がエコロジー経済学において再評価されている背景を浮き彫りにした。当研究を通じて、(1)環境財の貨幣評価および費用便益分析が孕んでいる欠陥、(2)環境思潮におけるハイエクの認識論・自生的秩序論の影響、(3)経済計算論争におけるノイラートの実物経済論の独自性とその今日的意義を示した。 2.環境思潮における福祉国家批判の検討 本研究では、福祉国家危機以後の時代文脈のなかでシティズンシップ言説と環境思潮とが交錯する契機を捉えるため、欧米を中心としたエコロジカル・シティズンシップ概念をめぐる先行研究を渉猟し、近代のシティズンシップ概念に最も影響力のある定式を与えたT.H.マーシャルの研究の再検討を試みた。またそれらの試みが、市場規範と公共圏の構造的条件との間に伏在する緊張関係をどのように乗り越えようとしているかを追究した。
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Research Products
(4 results)